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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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アレクサンドリア・チェシャ(前編)

 元々は戯れのつもりであった。

 「お父様、わたくし、冒険者ギルドの士官学校に入学するつもりです。」

 「…すきにしなさい。」

 もしかしたら、案じて止めてくれるかもしれない。

 そんな期待したわたくしの勝手な思惑とは裏腹に、食事の際に、将来の行く末を報告した言葉は、空を切ったようだった。


 …なんて、手応えがない。

 あなたの大事な一人娘が、訓練の厳しさに大の男が泣いて逃げ出すと評判のギルドの士官学校に行きたいと言っているのですよ。

 もっと、心配しても良いのではないですか?

 でも、戯れで口にした、わたくしの人生選択も、今では悪くないと思っている。


 入学した過半数は辞めていったが、第4学年まで在籍し、苦楽を共にした同級生は、貴族の階級の垣根を越えた一生涯の仲間です…周りが男ばかりで女の子が1人もいなかったのは残念至極だけれども。

 もしかしたら、女の子なら友人になれた可能性があるのに。

 

 …

 

 さて…ここら辺で、わたくしの名を明かし、自己紹介致しましょうか?

 わたくしは、家格がそれなりに有名だから、もう分かっている人もいるかもしれないけど。

 わたくしは、アレクサンドリア・ディア・ルピナス。

 五公爵の次席を占める宰相ルピナス公爵の娘であります。

 わたくしには兄弟姉妹がいない。

 母は、わたくしが幼いときに亡くなりました。

 …

 すると、わたくしがルピナス公爵家を継ぐことになるのよね?

 実家に帰ったおり、書庫を開けて家系図を調べたら、御先祖様には女公爵も複数人いて、前例がないわけではなかった。

 なんだ…わたくしが最初ではないのですね。

 ちょっとガッカリ。



 …



 でも、いいわ…それは大したことでなし。

 そうね、今、この時この場所で大事なことは、わたくしが生徒会役員になってしまったのは当然としても、何を為すかに掛かっている。

 これは、新興とはいえ貴族入りしたオリッサ男爵令嬢とも合意した懸案事項。

 他の平民出身である2人の役員は、ピンと来てない様だったけども。


 人には生まれた環境により、見え方、気づきが異なっている。

 これは、違う、異なっているとしか言えない。

 良し悪しとか、上下とかでは表現できない人の差異であるから、人とは産まれながらにして平等ではないのだと理解している。


 大丈夫…私とオリッサ少尉がフォローすれば事足りる。


 ここで勘違いしてはいけないのは、ほかの2人の役員より、私達貴族出の役員が優れているわけではないことで、お父様からは、口を酸っぱくなるほど言われている。

 「…差異を優秀と勘違いするな…ゆめゆめ傲るなかれ。」と。

 私達貴族の位置まで、実力で底辺から這い上がって来た彼女達には、不明確ながらも、私達貴族とは別の何かが見えている…それの源泉は、彼女達の内に宿る私には触れることすら出来ない宝玉のようなナニカです。

 理屈では認識できないソレに彼女達を通して感じることが、最近のわたくしの楽しみなのです。


 そう、わたくしは、彼女達、アールグレイ少尉とエヴァ准尉を、対等の存在として、()()()いる。

 それは、オリッサ少尉にも言える。


 友人とは、対等だから成立する。


 昨今のわたくしが、機嫌の良い理由とは、まさにソレでありますれば。

 ああ…夏季講習に参加して、本当に良かった。

 少々変わり種の…んんっ、貴族の価値観から外れた自由な気風を持つ女の子達と知り合うことができた。

 その風に吹かれることの、なんと心地良いことか。


 彼女らと、友誼を結べたら嬉しいわ。


 だって、彼女達は、とっても可愛いもの。

 毎回、彼女達と会う度に、顔が、綻ぶのを我慢するのが、苦しいのよ。


 対等に遇した、彼女達の活躍により、企画したダイバ祭は、成功した。

 女性らしい華やかさと、嵐のような力強さを感じられたと、招待した貴族、有力者から高評価を受けた。

 しかも王族の臨席を賜り、問題も起きず、大成功と言っても過言ではない。

 この催事の高い運営能力を、都市政府の象徴に、みせることが出来たことは、わたくしを含めて生徒会役員全員の将来へと、嚆矢を放つのと同義である。

 受け手の印象は、様々になるだろうけど、私が嚆矢に込めた意味は、

 (これまで都市政府を支えて下さった元老様方、これこの通り、次代の柱の用意は万全でありますれば、安心して御勇退下さいませ。今までお疲れ様でした。)

です。

 

 …けど、実は、それは些事に過ぎない。

 共同作業することで、役員の彼女達と仲良くなることが、私の目論見なのです。

 そしてそれは、オリッサ少尉も、ご同様と推測している。

 オリッサ少尉が、アールグレイ少尉を掌中の珠のように大事にしているのが、眼差しからも分かる。



 …


 

 そんな大事な友達候補のアールグレイ少尉に対し、わたくしの仲間である士官候補生組のクシャ准尉が、よからぬ企みを計画しているのが発覚した。

 …内心で、自分が殊の外ショックを受けてることに気がついた。

 彼は…直情的で、誇りに拘泥するきらいはあるが感情を制御できる仲間思いの若者であると思っていた。

 だが、わたくしは男性の生理的欲求を侮っていたかもしれない。

 或いは、仲間だと盲信してしまったのか?

 静かに瞼を閉じる。

 … … …

 4年間苦楽を共にした仲間であるクシャ准尉の不始末は、今期学生の筆頭貴族であるわたくしの責任です。


 わたくしが…彼の処分を断じなければならない。

 




 

 


 

 


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