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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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聖騎士の苦慮(後編)

 王子は、用意した空馬に騎乗すると、ダイバ島方向へ、颯爽と飛び立った。


 …


 ハッ…!

 この王子は、普段は、だらけとる癖して、なんでこんな時だけ、立ち上がりが早いのか?!

 王子の想定外の素早い行動に、しばし呆然としてしまったわ。

 ああああー、こ、これは職務上…放置はマズーイ!

 もし王子に何かあったら、護衛の私の責任になってしまうではないかぁ!

 私は、急ぎ、慌てて王子を追いかけた。


 …王子と同じように空馬に乗り、夜空を滑空して、遥か先の王子を目指し飛ぶ。


 ギルドの士官学校では、周りに魔力で防御膜を構築しており、通常入るには所定の手続きを踏み、内から解除してもらわなければならない。

 無理に突入するのは、私の力ならば可能だが、その場合、警報が盛大に鳴り、緊急事態を告げる。

 臨戦態勢が取られ、ギルド本部からも応援が駆けつけ、都市政府や軍部、騎士団にまで即時に連絡が行くから、幾ら私でも、ギルドの士官学校の女子寮が魅惑的な花園だとしても、到底侵入してやろうとは思わない。

 後々の措置が面倒に過ぎる。


 士官学校前で、ようやく王子に追いついたが、王子には、侵入する(すべ)が無いことに、…考えて、今更、気がついた。

 

 だが王子は、士官学校の手前で空馬を降ろし下馬すると、防御膜の前まで歩いて行き、ジッとその防御膜を見つめ続けた。


 まさか、王子も強行突入するほど馬鹿ではないはず…しばらくしたら…諦めて、帰るであろう。

 まあ、好きになった女に会いたいがためだけに、無駄でも、ここまで来たのは、大したものだ。



 …



 しばらくして、そろそろ帰ることを、促そうと思い王子の肩に手を掛けたところ、王子は膜に直接手を触れ、何やら呟いた。

 「…all clear。」

 王子が手を触れていた膜が、仄かに蒼白く光ると、私達は一緒に壁のようであった膜をすり抜けて、学校内に入り込んでいた。


 あ?…何だ、今のは?


 魔力を使っていたから、魔法であろうが、こんな魔法は、信じられん…これでは、どんな場所でも、入り放題の夜這い仕放題ではないかぁ?!


 ….なんて羨ましい。

 

 だが聞いたことがある。

 王族に伝わる重要施設への立ち入り権能魔法…あの噂は本当であったのか!

 確かに、緊急事態の際、都市管理者たる王族が施設に立ち入ることすら、儘ならぬのであるなら、お話にならない。

 解除鍵に相当する何らかの手段を持っているのは当然の話だ。

 だが…そんな使い所を選ぶ魔法を、意中の女に会いたいがために利用して良いのだろうか?

 … … …

 うむ、アリだな!

 機は逃してはならない。

 最高の獲物を得る為には、戦力の逐次投入などせず、一気呵成に火の如く侵略しなければならない。

 王子は熟慮の末、今が、その使うべき時と判断したか…これは面白い。


 私も護衛として、お供しなければならぬ。


 王子は、迷いなく女子寮の場所へと脚を進めている。…やはり把握済みであるか。

 勿論、王子は、正面から行かずに裏手に廻る。

 すると、風呂場の外側へと出た。


 中からは、くぐもった若い女達の声とお湯を流す音、時折り、桶を置く音が外まで響いていた。

 明かりと湯気が暗闇に漏れている。


 …うむ、間違いない。

 此処こそ、男の浪漫、女子寮の風呂場であるな。

 王子の脚が、その場所で止まる。


 分かる…王子の背中が感動で震えているのが、私には分かるぞ。


 それになるほど…確かに強襲して目当ての女を攫うにしても、今は、まだ宵の口…早過ぎるな。


 …ならば、私も、せっかく王子に付いてきて秘密の花園に侵入できたのだから、この場で私も無防備な女どもを物色しても罰は当たるまい。


 これぞ、役得と言うもの。


 ここで私も女達の赤裸々な姿を見定めるのは効率が良いし、観ても減るものではないから、女達に実害はない。

 それに私は神の戦士である聖騎士…清浄なる私が観ても全然嫌らしくはないのである…逆に喜ばれるかもしれんが、だが大事の前であるから、驚かしてもいけない。

 嫌がる素振りを見せながら恥ずかしがる女達を見るのも一興ではあるが、そこら辺の配慮は、紳士として当然必要であるな。


 静かに足音を忍ばせ近づく。

 だが…鑑賞するにしても窓枠はキッチリ閉まっており、開かない。

 …ムギギ。

 私の力を持ってしても開かないとは!

 物は古臭い窓なのに、重強度の強化魔法が掛けられていることに気がついた。

 こんな重爆撃しても耐えられるシェルター並の強度では、私でも歯が立たない。

 誰だ?こんな場所に、このような高度な魔法を掛けやがったのはー?

 ここは、油断して窓に鍵は掛けないのがお約束であろう!…全く風情というものが分かっておらん。

 曇り硝子では、中の様子は不鮮明だ。

 ぬぉ…ダメだ。

 王子に代わりて、窓に指を掛けて全力で開けようとしたが…開かない。

 

 その間も、中から若い女達の声が聞こえて来て…これでは蛇の生殺しではないか?


 見れば、高所の天窓から湯気が出ている。


 ムム、高いな。

 …だが、私の身長に、王子の身長を足せば、届くような距離だ。

 王子に一時的に強化魔法を掛ければ、私を持ち上げられるであろうと算段する。

 …

 私は、王子と顔を見合わせた。

 



 

 

 

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