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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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聖騎士の苦慮(前編)

 「…のう、ダムダよ。暑いのう。無風の日に窓を開けても風は入って来ぬと思うのだが、わしの気のせいかのう。」

 「流石は、ラムディア様、懸命な御推察で御座います。」


 「つまり、なんじゃ、わしは自然が頼りにならんときは、文明の利器を使えば良いと思うのだが、どうじゃ?」

 「流石はラムディア様、御慧眼にワタクシ、感涙致す所存で御座います。」


 …


 「ワシは暑いと申しておるに、明に暗に、暑いから何とかしろとお主に申しておるに通じないのは何故じゃ?それとも暗に気づかぬ風を装っておるのか?」


 「まあ…言いにくいのことなのですが、後者ですな。王子費用が、此度の対象女性の調査費用に消えましてな。残念ながら、節電しなければ今月は赤字となってしまいます。私も、この様な暑い部屋にはいたくはないのですが、仕方なく我慢してるのです。一刻も早く自分の部屋に帰りて涼みたいので、そろそろ本日は、お暇をお許しくださるでしょうか?」


 「不思議なのだが、何故主人たる我が、暑いのを我慢するに、立場的に家来になるお主の部屋は涼しいのであるか?おかしいであろう。そもそも王子費用は公費であろう。そこから私的な調査代を捻出するのはよろしくない。監査対象になるから、今月中に元に戻すように。来月から出納は侍従に任せるから引き継げ。そもそも護衛の騎士が金銭出納に関わるのもおかしい話しだ。以後、金銭出納は必ず侍従を通すように。」


 私は、…聞こえないフリをした。

 チィッ、調査費用を名目にしたのは、藪蛇だったか。

 フンッ、聖騎士の薄給だけでは、この仕事は、旨味がなさすぎる。

 王子費用を私的流用できるから、私のような有能な聖騎士が護衛として仕えてるのだ。

 せっかく王子の財布を、この手に握ったのに、手放したくはない…私が着任していらい苦労して画策して手に入れた私の財布だぞ。

  …

 「ダムダ・アカシャ。」

 すっとぼけていたら、王子の真面目な冷ややかな声が、私の耳朶を打った。


 「ハハー!畏まりまして御座います。いやはや歳を取ると耳が遠くなりますもので、何とぞお許し下さいませ。」

 チィッ、この王子は、普段、自堕落でいい加減なくせに、こんな処だけ、真面目でいかん。

 もっと部下の営利活動には眼を瞑ってもらわないと、私が儲からんではないか?!

 …いかんな。清廉すぎては魚も私も住めんぞ。

 まあ…私の主義には反するが、あの顔は私の処分も辞さない断固とした顔つきだ。

 …

 渋々ながら私は、頭を床に着けて、さも敬服したかの如く見せかけた。


 フンッ、そもそも、皆が有能で先進的な考えをした私みたいであったら、この世の中は回らない…王子のような存在は、社会を成立させるために必要なのだ。

 

 フンッ、ちぃっとは、上に立つ者の清々とした心構えができてるじゃないか。

 しょうがない…今回は、大人の私が折れてやるか。

 私では真似できない王子の公正な態度に、私は不本意ながらも、妙な満足感を覚えた。


 私のエンジョイ人生には、この王子には、活躍してもらわなけれゃならん。

 私が住む社会を、ある程度はキレイにしてもらわなければ、住みにくくなることは分かっている。


 「だいたい、慧眼もお主の感涙も、ワシにはどうでもいいんじゃ。お主の筋肉も面も暑苦しくてかなわぬ。ワシは、この都市で上から数えるに偉い地位にあるというに暑気払いさえもできぬと申すのか?あー、あー、もう暑くてやってられんわ。やっとれん。仕事したくねー!あー、やだやだ、毎日食っちゃ寝して暮らしてー!」


 王子は手脚をバタつかせ、騒ぎ始めた。

 こうなると、王子の我儘はシツコイ。

 クソッ、思ったそばから、コレだ…。


 我慢だ…全ては私の自堕落な生活を維持するためなのだ。

 だが些か業腹だし、ここらで我儘王子にお灸を据えてやるか。

 「ところでラムディア様、あの女の調査結果は聴きたくないでしょうか?」


 王子の動きが、ピタリと止まる。

 コチラを覗っている気配がアリアリと分かる。


 フフフッ、掛かったな。

 光りの教会の異端審問部に、有る事無い事吹き込んで、大至急で、私をコケにしやがったあの女のことを調べさせた。

 お陰で調査費用はタダだし、早くにその正体も割れた。

 流石、光りの教会の異端審問部の調査力は世界一!

 奴らの神を絶対とする狂った信仰の前には、どんな手段の調査活動でも許されると思ってやがるから早いし、神の敵かもしれないと囁けば、真偽の区別なく陥れてくれる。


 ムハハハ、ハー!これは、私をバカにしたあの女への、ちょっとした意趣返しだ。


 そうそう上手くはいくまいが、神を絶対正義とした気狂いのエリート共は、手強いしシツコイぞ。

 上手く行けば、異端の魔女として、魔女狩りのA級犯指定として、無理やり奴隷落ちさせたところを、私が買い取って矯正させてやろう。


 「ラムディア様、あの女は、冒険者ギルドのアルフィン・アルファルファ・アール・グレイ少尉と判明致しましたぞ。」

 王子の片耳がピクリと動いた。

 きっと、興味津々で耳をそば立ててるに違いない。

 

 異端審問部からの報告書を、続けて読み上げる。

 「…年齢19歳、学校を飛び級で卒業後にギルドに登録、下からの叩き上げ。可愛らしく清楚で凛々しい見た目と果断で大胆不敵な勇気と天地無窮の慈愛を併せ持ち、魔法、剣術、拳闘術も習得した風のような身軽で変幻自在な戦い方と光の治癒の神術で味方を護り癒すことから、[風と光の聖女]として、冒険者の間で、密かに大人気をはくしている。住居は都市の南側だと推定されるが不明。依頼は主に、探索、採取、清掃、護衛を受けるも高額の依頼料の大半は、親への仕送りと孤児への寄付に消えて、本人は、まるで修道女のように質素な暮らしをしています。我が教団の孤児院にも毎月高額な寄付を頂いておりますれば、教団の支援者であり、孤児院出身の多数の教団職員にも支持者がおります。胡乱な噂を立てて、失礼のなきようお願いします…だと?!な、な、なにー?!」


 私が予想外の記載内容に驚いてフリーズしていると、王子が突如ムクリと起き上がり、眼を輝かせて喋り出した。

 「おおー、やはり、ワシの目に狂いはなかった。あの子は見た目だけでなく心まで真に優しい…実に魅力的な女の子だ。…なあ、ダムダよ、毎月汗水流して働いた稼ぎを、親の仕送りと、自分と関係ない孤児に寄付するなど、出来るものなのか?…なんて心が清らかな娘ごだ。ワシは感動した!彼女こそワシの嫁に相応しいではないか?そうであろう?そうだ!そうに違いない。彼女以上の存在には、もう会えぬぞ。あの時の出逢いは運命だったのだ。今からお近づきになるぞ。ダムダ、空馬をもっと来い。即時出発である。」


 むうー、異端審問部め、ひよりやがって。私が若い頃は、もっとトチ狂った、エッジの効いた危ない信者が在籍していたものだが?!


 しかも、こんな日没後に王子のお守りとは…私は定時帰り、残業はしない、休みは他者を犠牲にしてキッチリ取る主義なのに。

 それもこれも、あの女のせいで、返す返すも腹だたしい。


 だが、今から行っても士官学校は閉まっており、あの女に会えることは無理であろう。

 そう言って私は、王子を引き留めたが、馬の耳に念仏で聞きそうにはない。

 「ダムダよ、恋に障害はつきもの。…諦めたら、そこでゲームセットだ。…たしか超古代時代の古文書に書かれていたぞ。」

 

 だ、誰だー!?大昔に、そんな余計な事を書いてた奴はー?


 


 









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