政治家の言う通り
さる宮殿の奥深く、重厚な扉の室内では、トビラ都市政府の重鎮達によって定例の会議が行われていた。 重要課題の方策を巡って進展が滞り、一旦小休憩となった際、冒険者ギルドの夏季講習組による文化祭が話題に上がった。
「…そうそう、今年から冒険者ギルドの士官学校が四年制に戻ったのは、喜ばしいことですな。これで良質なギルド士官を育むことができます。」
「…ああ、ようやく古代から連綿と続いた緊急事態態勢からの脱却の兆しかもしれん。半民間のギルドが活性化するは、都市の基盤強化につながる。」
「だが民間機関ながら、ギルドは軍隊に匹敵するほどの軍事力と規模をほこる。手綱を握るために、ギルド執行部に政府からの要員の派遣の増員も検討しなければ…。」
「あそこは、扱う業務も多種多様で面白い。ワシのほうで担当しても良いぞ。」
「ハハハッ、御冗談が過ぎますなぁ。●●卿。それは欲張りすぎるというもの。過労でお倒れになっても知りませんぞ。」
「そう言えば、以前、ギルドの士官に活を入れ、質的向上の施策として、叩き上げの有望な若手の下士官を、士官に上げる話しがあったろう?ちょうど、その有望な若者達が夏季講習中に文化祭を開催してな。私の息子達が臨席して視察してきたが、なかなかに面白かったらしいぞ。」
その言葉に、雑談に興じていた重鎮達が、発言の主に注目する。
その主とは、このトビラ都市の唯一の頂に他ならない。
「これまでは直裁的な学術研究や、武術の演武程度の発表の場の儀式めいたものだったのが、来た者らが観て、参加して楽しめる…そう、よりエンターテイメント性のある催しへと発展していたという。しかも多様でグレードも高くなっていたそうだ。」
この場の中心人物の、感心した御言葉に、ギルド士官学校の文化祭が、重鎮達の関心を買った。
(ふむ…確か、ギルドの刷新改革案の一つである若手有望株のレッド昇格案を担っていたのは、財閥系のオリッサ男爵の御息女だったな…二つ名は、ジーニアス。てっきり親バカの自慢話かとばっかり思っていたが…。)
(変化の兆し…有望な若手の台頭はギルドからか?噂が本当ならば今のうちに我が派閥に取り込まなければ…。)
(至急、情報を収集しよう。この者らが次代を担う資格あるならば、把握しておかないと…。)
(我らに敵対するならば…若い芽のうちに潰すか?見極めなければ…!)
重鎮達の、それぞれの思惑が錯綜する中、一人の重鎮が、穏健派の筆頭と目される宮廷侯爵に声を掛けた。
「そう言えば、財務卿のお嬢さんも、ギルドに入って今回レッドに昇格され、先程の士官学校の夏季講習組に参加されてるとか…おめでとうございます。」
「いやー、ハハハ、ご存知でしたか?いやはや、お恥ずかしい。まったく、うちの娘ときたら、お転婆で困っています。突然、自分の実力を試したいなどと言って、実家を出て、士官学校にも入らずにギルドに入った時はビックリしましたが、今、思えば適正があったのでしょう。更に幸い良い友達にも恵まれて元気で暮らしてるようで良かったと、胸を撫で下ろしたところでして。」
「ゴホン、ゴホン、…実は、うちの娘も士官候補生として今期の夏季講習の学校祭の運営に関わっているのですがね。」
「おやおや、●●●●公のお嬢様も!それは優秀ですな。確か来年卒業ですよね?夏季講習に参加されてるとは把握してませんでしたよ。」
…
…
…
「…皆々様、そろそろ次の議題がありますので、会議を再開したいのですが…?」
いっとき、議場は、重鎮らの子供自慢の場と化したが、司会進行役の言葉に重鎮らは雑談を止め、会議を再開させた。
だが、この時のギルド士官学校の文化祭成功の話題により、ギルドの叩き上げのレッド達が、都市政府の舵を担う重鎮達から、些少は有能であると認識され、注目を浴びる契機となった。
その影響は、彼らのこれからの人生に波及していくのだ。