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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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星の降る夜の話⑦

 夜の帷が落ちる頃、バーレイ准尉から酒を3本いただいた。



 …



 昨日、あれから、周りの猥談に気を取られ、バーレイ准尉に対し、「親友のお前さんから、コンコンと現状を説いてやるしかない。」と、策とも言えない助言ぐらいしか出来なかった。

 それなのに秘蔵の酒を3本も、もらうとは心苦しいな…まあ、くれると言うのなら俺は貰うがね。

 酒は、天下の回りものなので、俺は遠慮はしない。

 それに酒も、俺に美味しく飲まれる方が幸せのはず。


 しかし、一応俺にも弁明はあるのだ。

 バーレイ准尉の話は、比喩や例え話が多くて、分かりにくいんだ。

 何しろ親友の名前も教えてくれず、その想い人も何処の誰か分からない状態では、抽象的過ぎて具体性に欠ける。

 これでは、いくら俺が有能だとしても策を練ることなどできやしない。


 だが、タダ酒を貰った分、些か気が引けて、あれからどうなったかを聞いてみた。

 …

 バーレイ准尉曰く、その親友とやらは、バーレイ准尉の粘り強い説得に意外にも納得したそうだ。


 お!ならば説得成功か?

 案ずるより産むが易しとは、この事だったか?

 

 その親友曰く、「確かにバーレイの言う通り私が負ける可能性は高いな。…ならば、正攻法で勝負しなければよい。相手の弱みを握って交渉で譲歩を引き出すか、力の出せない状況を強襲すれば良いということだな?…さすが我が親友よ。お主の価千金の助言は忘れない。狐のように狡賢く策を巡らし、弱点を獅子の如く強襲する。たとえそれで恨まれとしても、まずは彼女を手に入れなければ。その後に優しく話せば、きっと彼女も分かってくれるだろう。…結婚式には是非来てくれるか?」と感謝してたそうだ。

 おお…なんだそりゃ?

 どうやら、あきらめる気はないらしいな。

 恋は盲目とは、よく言ったものだ。

 自分の良いようにしか解釈出来ない平衡感覚に難ありな貴族に思われるなど…思わず、その親友の想い人の女性士官に、同情してしまった。


 バーレイ准尉の顔が、見るからに落ち込み元気がない。


 …どうやらバーレイ准尉的にも、状況は悪い方へ行っているようだ。


 だがこれは、その親友とやらの思考形態が下種なだけで、俺やバーレイ准尉が悪いわけではない。

 うーむ、こりゃ、不可抗力というものかな?


 元々貴族とは、自己欲望に正直で、欲しいものを手に入れるためには、ありとあらゆる力を行使し、その手段方法は問わない癖がある。

 妻を何人も娶り、ハーレムを形成してる貴族も珍しくはないくらいだ。

 だから、平民の感覚に慣れた俺からしてみれば下種な思考と思えるその親友とやらの考え方も、貴族としてみたならば、….普通なのだろう。


 だが、これもギルドに所属する女性士官に対しては、悪手ではないかと思われる。

 彼女らは、たおやかな見た目と裏腹に、自由を尊ぶ猛者揃い。

 婚姻のためとはいえ、無理やりな既成事実を為されるなど、彼女らが良しとするはずがない。

 その親友にしても、騎士格の実力者に対し下手を打てば返り討ちで、リスクが高過ぎるぞ。


 それに、これは俺自身の考えだが、女性とは掌中の珠のように優しく大事にすべきもの…


 俺の脳裏に少尉殿の可憐な身姿が思い浮かんだ。


 …断じて、襲って狩り得る、獲物ではない!

 …ないのだ!

 「ル、ルフナ殿、どうなされた?お、お顔が鬼のように…」

 顔?…俺の顔がどーかしたのか?そんなことより、お前の親友の馬鹿者を止めるのが先だ。

 …考えてみれば、可能性は低いだろうが、アールグレイ少尉殿の可能性もなくはない。

 …

 今までは他人事のように聴いていたが、…その可能性に俺の胸がざわついた。

 いやはや、…あの少尉殿の可愛いさだ…油断は出来ない。

 取り敢えず、その親友とやらは、天誅であるな。


 もし、対象が少尉殿ならば、大罪であり罰として、その親友とやらは海の藻屑か、風の前の塵として消えてもらおう。

 …違うのならば、潰す程度で勘弁してやろうか?


 どうやら少尉殿は、殺生を嫌っている節がある。

 だから、俺も常日頃から、なるべく悪党にも慈悲を掛けるようにしている。

 何故なら俺は、少尉殿の悲しむ顔は見たくないのだ。

 「バーレイ准尉、…友の非道を止めるのは、真の友の務めではなかろうか?可憐でたおやかな弱い女性を己れの色欲の満足のために、卑怯にも弱点をつき襲うとは、貴族としても男としても断じて許すわけにはいかない恥ずべき所業!そうであろう?バーレイ准尉!」

 俺が、両肩に手を掛けて揺さぶると、今まで腑抜けたような態度だったバーレイ准尉がハッと気がついたように面を上げた。


 「お…そ、そうですな。ルフナ殿。まさしく、まさしく、そうでありますな。友の間違った行いを止めるは親友の務めでありましょうぞ。よく気付かせていただきました。ありがとう、ルフナ殿、ありがとう。」


 突如、感涙に咽ぶバーレイ准尉を唆して、親友から作戦を聞き出させ、邪魔する計画を立てなければならん。


 たとえ少しの可能性でも、懸想だとしても少尉殿の貞操を奪うなどは、あってはならないことだ。

 …この俺が断じて許さん。




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