星の降る夜の話⑥
祭りは好きで、学校祭は大いに皆で騒ぎて楽しんだ。
心残りは、少尉殿と一緒に回れなかったことだが、役員でお忙しいから仕方ない、仕方ないのだと納得させる。
だが、一日でも会えないと、あの少尉殿は、俺の理想がこの世に現れた幻ではなかったのかと不安になることがある。
もちろん、少尉殿は夢幻ではないことは理性では認識している。
祭りの日から数日たった圧縮学習を受けた日の夜、えらく悲しい夢を見た気がした。
目から涙がとめどもなく流れ落ちて、目が覚めた。
…
ああ…夢であった…良かった、本当に良かった。
そう思った途端に、泣いていることに気がつき、何の夢を見たかも忘れていた。
夢如きで、俺は何故こんなに泣いているのだろうか?
恥ずかしくなり、洗面所で顔を洗いながら不思議に思った。
夢の内容は忘れたが、絶望的な無力感に苛まれ、ひたすらに悲しかったのは覚えていた。
あんな思いは、二度と御免だ。
俺は、ザブザブと顔を洗うとタオルでごしごし拭いて、えらく腹が空いていることに気がついた。
「…食堂にでもいくか?」
憮然としながら、着替えて一人で食堂に向かった。
…
飲み過ぎかも?
或いはこの夢見の悪さは、圧縮学習と無理した飲み会のダブル成果かもしれない。
他の皆んなは、もう昼頃なのに起きる気配もなかった。
渡り廊下を歩きて、快晴の陽射しが強い中、海から涼やかな風が吹いて来る。
…なんて涼しく気持ちの良い風だろう。
それは、まるで誰かを彷彿とさせた。
…
普通に起きて普通に過ごすことができる。
今、この日常が、俺は愛おしい。
何故なら…
ちょうど食堂に着いた時、女子寮から食堂へと渡る、渡り廊下にペンギンと一緒に歩いて来るあの人を見かけた。
…輝いている。
陽の光りに照らされて輝いているあの人がいた。
…美しい、そして愛おしい。
鼓動がドクンを音を立てる。
俺は、きっとこの人に…アールグレイ少尉殿に会うために産まれてきたんだ。
俺に気づいた少尉殿が、俺を見て微笑んでくれた。
「ルフナ、おはよう。…何だか久方ぶり。」
「おはようございます。少尉殿。…今朝は、えらく別嬪さんに見えますな。」
再び会えた多幸感で胸がいっぱいになり、つい軽口をきいてしまった。
少尉殿は、薄らと頬を紅潮させるとムニャムニャと小さな声で何か言いながら行ってしまった。
恥ずかしがり屋さんなのが可愛らしい。
少尉殿の後を、ウキョウキョ鳴きながらペンギンが続いていく。
少尉殿が大切に飼っている魔法生物だ…未だ謎が多い。
一説によると、人間より高度な知能を有してるらしく、魔法生物からしてみれば、人間を飼っている感覚かもしれないという。
嬉しそうにヒョコヒョコと歩いて、一生懸命少尉殿の後を追いかけている姿を見ると、とてもそうは見えないが。
だが…とても慕っていて、仲が良いように見えた。
ある意味、少尉殿に、一番近い存在かもしれんなぁ。
うーむ、鳥類かぁ。
鳥の類いは、焼き鳥にしか縁がない。
脂肪がたっぷり乗っていて美味そうかもしれないが、食べたら少尉殿が悲しむだろうから、それは出来ない。
今度、お近づきの印に、魚でも持っていくかぁ。
…
それにしても、先日から何か忘れている気がする。
…
まあ、いっかぁ。
大事なことなら、そのうち思い出すだろう。