星の降る夜の話⑤
俺がバーレイ准尉から、相談を受けている間、周りの皆んなは、女子の誰か良いかの猥談に話を咲かしていた。
相談の話に集中しながらも、奴らの声だけがデカいから勝手に聞こえてくるのだ。
「…やっぱり、受付嬢はギルドの華。ダージリンさんの美しさは群を抜いている。上品で華麗、宝石を散りばめたような輝きは、用は無くともギルドに見に行く価値があらあな。」
「いやいや、あの人も実に惜しいよなぁ。あと胸さえあれば完璧なのに。あの絶壁具合じゃ登れやしないぜ。しかも、あの歳からじゃ、もう成長は期待できんだろう。その点、不殺のマリー嬢の胸は、対照的に大きいとみた。動き易いように胸を締め上げてるけど、あの胸の豊かさは隠しきれねえ。きっと、手で掴んでも余りあるほどだぞ。大地の豊穣の神の加護持ちに違いねぇや。」
「うむ、お前の目の付け所に間違いはない。マリー嬢は、昔は性格高飛車な感じが鼻について、いくらプロポーションが良くてもランク外だったが、最近は一皮向けたのか、大人の艶と純真な優しさを持つようになって魅力度が格段に上がった。それに普段、真面目で冷静な顔つきなのに、時折り見せる恥ずかしそうに照れる表情の落差が良いよなぁ。あの人、口数少ないから誤解されるけど、聖母のように優しいぜ。」
「そんなことは、ワシはとっくに知ってら。しかもあの細い腰つきがエレガントで、脚線美も大人の色気がムンムンでたまらんしな。一度はお相手したいもんだぜ。」
「馬鹿ものが。皆んな胸ばかり眼中に入れおって。尻も忘れちゃならん。何事もバランスが大事。その点、黄金比を保ってるのがショコラちゃんよ。見ろ、あのちょうど手に掴みやすそうな柔らかそうな胸を。細い腰を繋いだ先にある引き締まった小降りな桃尻を。スッポリと腕に抱き締められるくらいのコンパクト具合だが、服を剥いたら、マリー嬢より、感触も感度も凄そうだ。ニヒヒ。」
「おいおい、ショコラ様は侯爵令嬢様だぜ。そんな嫌らしい顔つきを見られでもしたら打首獄門だ。その点、平民のエヴァ准尉なら、ショコラ様に引けを取らねー身体つきで、可愛い顔だし、更に役員に抜擢されるほど有能だ。なにより控えめなあの性格がいい。絶滅した大和撫子ってあんな感じかもな。結婚して嫁さんにしてぇ。俺はエヴァ准尉推しだぜ!」
「待て待て、ショコラちゃんやエヴァちゃんが可愛いのは認めるが、年齢が若すぎる。やはり大人の魅力と言ったらダルジャン准尉さ。鍛えに鍛えた研ぎ澄まされ身体に女性としての艶と豊かさも兼ね備えてある。軽装備を脱いだら、大人の魅力がムンムンで、あのプリンとした尻はたまらんな。」
「尻かぁ。確かにあの尻は良い尻だ。ダルジャン准尉の尻は、吾輩の人生ベスト3に入るほどに見目形良く美尻と言って過言ではない。吾輩の所見だが、鍛えられてるにも関わらず触ったら極上の柔らかさに違いない。」
「なにー、ベスト3ということは、ダルジャン准尉ほどの美尻に匹敵するお尻がまだあるというのかー!?」
「ぬぅ、お主も尻派か?ならば教えてしんぜよう。吾輩が魅了されたお尻は、ショコラ様もマリー嬢もエヴァ准尉のも捨てがたいが、エトワール総代よ。今度良く観るがよい。タイトスカートを押し上げる極上品のお尻様を。形といい、大きさといい、完璧だ。あのやや小振りな胸も吾輩的に好みでポイントが高い。理智的な瞳と冷たい言動と艶ある魅力的な身体との落差が萌えるの。」
全く、うるさくて相談事に集中できやしねぇ。
俺も猥談は嫌いじゃねえが、話題に割と親しい知り合いの同僚が出て来ると…微妙な感じだ。
普段は気にはしてねえが、エペ家の三人娘を始め、ここに集った女達は、若くて見た目は極上品とも言える身体付きをしている。
あらためて、思い起こせば、手を出せないのが惜しい環境ではある…鑑賞だけでは生殺しも甚だしい。
しかし、ここは想像だけで我慢するしかない。
内心ムズムズするが、盛り上がっている猥談を止めろとも言えん。
「…あのような冷たそうな女ほど情が深いものよ。懇ろになれば、良い声で鳴いてくれるに違いない。」
…
「…ゴクリッ。うん、堪らんなぁ、この酒美味すぎるぜ。それでベスト3ならば、もう一人いるだろう。美人が多すぎて見当つかないが、いったい誰だ?」
「フフンッ、皆んなは気がついてないが、尻への探求に目がない吾輩は気づいたのだ。極上の中の極上、ベストオブお尻様の持ち主を。その人の名は…」
…???
「アールグレイ少尉だ!」
…ドキリとした。
まさか…少尉殿の名前が出るとは。
いや…少尉殿の魅力は隠し切れるものではない。
少尉殿を貶める話題でない限り、ここは静観するしかない。
「アールグレイ?誰だ?」
「ほら、副総代の、あの地味目な子。」
「ああ、貴族に喧嘩売ってた?うーん、何故かあんまり印象ないんだよね。」
ザワザワと周辺が騒ついている。
少尉殿の魅力が分からない有象無象の輩が多くてイラッとしたが、魅了されてない輩がいることに安心もする。
ここら辺、俺の胸中は複雑だ。
「…おまえら、分かってないなぁ。極上の女を見過ごしてるぜ。いや、吾輩も趣味である高度に発達したお尻観察力が無ければ気づかなかったが、アールグレイ少尉は、最高限度の隠形の術…認識錯誤の魔法術式を展開してるから、気づかないのも無理はないな。術式は超高度だが、使われている魔法力は逆に微弱だから違和感に気付けば破ることはできるぞ。しかし、超一流の魔法使いでなければ、あの術を初見で見破るのは難しいな。…まあ、吾輩は見破ったがね。」
「マジかぁ。」「平民のくせに中々やりおる。」「おお、今度見てやるぞ。」「アールグレイちゃんかぁ…是非、俺の可愛い子リストに載っけなくては!」「…気がつかなかった。」
ああ…ヤバい。
少尉殿の魅力が皆んなにバレてしまった。
まさか、少尉殿のあの可愛らしい、俺を魅了してくるお尻を執拗に観察することで、隠形術を破る者が現れるとは…!
お尻観察師、恐るべし。
「吾輩は、ある日、女子達のお尻を観察していて、一人の地味なお尻に出会い、その違和感に気がついたね。この吾輩の観察眼をたばかるとは!…そう思った途端、パリンッと、まるでガラスが割れる音がして、真実の姿が、この眼に映し出されたね。輝くほどに美しい極上の形をした、もし手で触れはシルクのように、掴めば柔らかそうな感触がするに違いない究極のお尻様が、そこに存在したね。しかもお尻だけでなく身体全体が造形美の極地で、胸も豊かで高く盛り上がり、顔は童顔ながら、花が開き始めた美しさを醸しだしている。吾輩、あまりの美しさに魅了されて、その場で拝んでしまったほど。今思い起こしても彼女のお尻様が第一位ね。」
ぬう。少尉殿のお尻の本当の魅力を分かっている者が俺以外にいるとは!…あのお尻観察師め、なかなかやりやがるな。
「なにー!そんなに良いのか?」「…ぬかったわい。」「よし、今度観察してみよう。」
「俺は、分かっていたぜ!アールグレイ少尉のお尻は極上だが、更に豊穣な胸こそ、大きさ良し、形良し、柔らかそうでかつ反発力良しの三拍子揃った美乳だとも見破っていたぞう!」
「なにー!お主もか?やるな!」
お尻観察師と胸観察師が、ガッシリと握手している光景が目の端に映った。
「ハアハア、あの胸はたまらん。こんど足がもつれた振りして、後ろから、こう…抱き締めて両手で揉みたいと考えたり。」
「いや、それはあかん。吾輩らは観察して愛でるのみ。ドンとノータッチじゃ。」
「この勇気なしめ、胸や尻は愛でて触ってなんぼじゃ。俺はあえて茨の道を行くぜ。あの胸を触って揉めれば、俺の人生に悔いなし!」
…!!!
ぬぅ…巫山戯るな!
少尉殿の、あの柔らかい胸や尻は神聖不可侵なもの、俺以外の者が懸想するだけでも許しちゃおけねぇ。
俺は、ここでキッと、声をしてる方に振り向いた…
…ら、既にウルフェンが、件の声の持ち主の胸元を掴み、高く吊し上げていた。
「…我らが姫様に対して、なんたる無礼な、口振る舞い、その罪は極刑に価する。●ね!●んで姫様に無礼を詫びろ。地獄に落ちてから後悔するがいい。」
ウルフェンの口元から、重低音の唸り声が絶え間なく聴こえてくる。
その回りを、獣人達が怒りの形相で、立ち上がり取り囲んでいた。
…ああ、マズイ。
出遅れた。
俺は、ウルフェンと気持ちは一緒だが、このままでは少尉殿の胸を端緒として●人が出てしまう。
それでは、少尉殿が悲しむだろう。
かような悲惨な事態は心優しい少尉殿の本意ではない。
俺は、回答を考えていた相談事を途中で切上げて、ウルフェン達獣人の集団リンチを、慌てて割って止めに入った。
…
…
ウルフェン達より早く、ある程度、奴をボコボコにしてから、謝らせて、無理やり鉾を納めさせた。
その後、全員でまた飲んだ。
やはり、酒が美味いと皆が仲良くなれるのが嬉し
い。
あれ?何か忘れているような…?