星の降る夜の話③
宴は、毎週末、俺の部屋で開催された。
日時場所を決めたわけではないが、週末に誰かしら酒を俺の部屋に持参してくるのだ。
参加する人数は、開催される度に増えて、遂に男子寮の過半数を越えた。
部屋の狭さから、中廊下まではみ出して飲む者も出る始末…。
俺がそんな部屋の片隅で、気分良く酒を飲んでるさなか、一人の士官候補生に声を掛けられた。
「ルフナ殿、一つ御相談がございまして…」
俺よりタッパがあり、ゴツい。
金髪で角刈りの見るからに体育会系だが、育ちの良さが窺える品のある顔つきをしている。
名前は、確か…バーレイ。
本来の士官学校学生から奇特にも夏季講習に参加した貴族の一人だ。
鍛えられた身体は、俺たち叩き上げと遜色ない。
バーレイ子爵家は、元々武芸で名を馳せた一族で、少数派閥ながらも今も軍隊や騎士団に血族が在籍している。
そんな立派な貴族様が、俺のような没落した元貴族の平民に相談とは、何ぞや?
挨拶代わりに、杯を受けた。
ムムム?!、こ、これは美味い…。
清流のような喉越し、繊細で透き通った味。
なのに後味に火酒のような強さが噴き出してくる。
こりゃ、たまらねぇ。
まさに合成酒では味わえぬ逸品。
蔵の中で、何十年と寝かせた洗練された味と、若々しい焔のような荒々しい味が互いを引き立てている。
一杯飲んだだけで、胃の腑が熱い。
それほどに強い酒なのに、清水のようにスルリと飲みやすい。
文句なしに美味いが、危険な酒だぞ。
「父上に内緒で、蔵から一本くすねて来ました。なあに何十本も寝かせてあるので、一本くらいバレやしません。」
バーレイ准尉は、入手先を公開して、苦笑いしながら、尚も薦めてきた。
…バーレイ子爵家の世に出ることない秘蔵の逸品かぁ。
入手先は聞かなかったことにして…尚更美味く感じた。
だが、相談事とは、この酒の美味さに匹敵する厄介事だろうな…やれやれ。
まあ、それを肴にして呑む酒も乙なものだろうさ。
俺らの愚痴や昔の苦労話を、今どきの若者は普段嫌な顔せず聞いてくれるのだから、若者の悩み事を聞くぐらいは、年長者の務めだな。
片膝を着きながら、杯についでくれるバーレイ准尉に対し、脚を崩して、横に座るように言う。
「さあ、話してみな。」
俺は、砕けた調子で、話を促した。