表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
573/617

恋愛ラプソディ(前編)

 ある時、風呂場で騒ぎがありました。

 女子の甲高い悲鳴と、その直後のワイワイガヤガヤと大騒ぎ。


 まずは、駆けつける。

 僕らギルド員は、巧遅より、拙速を重んじる。

 時と場合と相手に寄るけど、先ずは駆けつけるのが癖となっている。

 

 その時、僕は居室で珍しくも寛いでいたけども、寝転びなら読んでいた[獣王記]の第3巻の佳境に入った所だったのだ。

 ラピスから「姫様、寝ながら読むのはお行儀悪いよー、姫様だらし無いね。」と言われながらも無視して、スライムのように寛いでいたのだ。


 でも、救けを求める女の子の悲鳴は、僕の集中をも突き破り、本の世界に浸っていた僕の意識にまで届いた。

 せっかく面白くなってきたところを惜しむ気持ちも些少はありましたが、それを振りきり、意識を急浮上。

 幸せな夢の途中で、いきなり起こされた時に似た荒ぶる気持ちを、泣きながらヤル気に変えて、頭中でカチリとスイッチを切り替える。


 …カチリ。


 瞬時に飛び起きると、居室を一瞬で出て、中廊下を風呂場方向へ怒涛の如く駆け抜けた。

 ラピスが僕の、いきなりの動きに驚いて、ドヒャアと声を上げてのけ反る姿が目の端についた。

 …

 勢いづいたGにブレーキを掛け現着すると、身体をタオルで隠し巻いた見知った獣人の女の子が、ちょうど風呂場から飛び出してきて、焦りながら口もきけずに、僅かに空いた高窓を指差していたので、言いたいことが分かりました。


 まさか…覗きですか?!


 レッドに実力でのし上がった百戦錬磨の彼女らでも、いつでもクールにいられるわけではない。

 お風呂は、女子が心の鎧をも脱いで寛いでいる聖域(サンクチュアリ)です。

 普段、勤務外はスライムのような心持ちの僕も、怒ることはあります。


 …許すまじ!!

 

 僕には前世、男の記憶があるので、男子の気持ちは分からないわけでもないが、これはダウト。

 今いる被害者達には、一見して貴族の子は見当たらないから、だから捕まえても法令上、通常ならば犯人は極刑に処せらることはない。

 でも、この世界に罰の上限は設定されてはいない。

 …

 僕には、覗かれた女の子達のショックは胸が痛いほどに気持ちが分かるので、この際、覗いた不届き者は、捕まえて簀巻にして海にドボンが順当ですよね?

 幸いに海は近い。


 彼奴には…覗いた記憶ごと消去の刑が相応しい。

 

 ガサガサと木立を掻き分けて逃げていく音が耳についた。

 図々しくも、まだノウノウと壁外に居たらしい。


 空いている窓自体高い位置にあるから、もしかしてさっきの悲鳴で驚いて落ちたのかもしれない。

 ならば、手負いか?

 今なら捕まえられるかも!


 僕は、瞬時に判断し、外に回り込むと、音がしている茂みに飛び込んで追尾した。

 「待ちなさい!」

 呼び掛けると、無言でガサゴソと慌てて逃げていく気配がした。


 …



 悪さをしたものは、必ず逃げ出そうとする。

 卑怯なる振る舞いに憤りが込み上げる。

 このまま逃したのでは、覗かれた彼女達は泣き寝入りです。


 前世では、覗きなどの悪人の味方をして、人権だ差別だと、情状酌量の余地ありだ、精神的ストレスのせいとか、罪に加担し、罰から逃れさせようとする厚顔無恥な大人が沢山いた。

 僕からしてみたら、更生する機会を奪い、悪を助け肯定する行い…それでは誰も救からない。


 僕は、悪を助長する彼らを罪人より軽蔑する。


 彼らのお陰で、罪人は、為した罪から逃げ出し、償いもせず反省もしない、自分は悪くはないと、捕まっても自分の罪から目を背け、逃げ出そうとする。

 …見苦しくも淺ましい。

 その姿は、不幸に足掻いて苦しんでいるようにも見えた。


 今世では、罪人を防御する職種はない。

 誰もが公正な裁判官的立場で判断するから、成り立つ余地がなかった。

 公正と事実が問われ、権威と権限が責任を負い、実力と覚悟が重要視される。

 罪人は、その罪と相応の罰を然るべき負う。


 まあ…捕まったらの話しだけども。


 …

 

 未だ姿は見えぬが音を辿り追跡しながら、僕は考えた。



 士官学校は塀で外部と遮られ結界が張られている。 無理やりこじ開けるのも可能だが、その瞬間に警報が鳴り、バレるは必定。

 女子寮の寄宿舎も学校内だから、外部犯の可能性は極めて低い。

 夏季期間中につき、在寮してる生徒は、夏季講習中の僕らだけ。

 夜間につき、教官は宿直と残業している者、寮務主任と住んでるもの若干名のみ。

 覗きの犯人は、内部犯の知り合いの可能性が高いというか、ほぼ決まりということに…今、気がついた。


 もし知り合いなら…多分知り合いだろうけど、会ったら非常に気まずい。

 クール准尉とかフォーチュン君達の顔が思い浮かぶ…いや、まさか…あの子達が?!

 …信じたい。

 でも、僕は、男がスケベなのも分かります。

 生物学的にも理解できる。

 打ち消しても、あり得る可能性を否定出来ない。

 ならば…ルフナにも可能性があるの?!

 泣きたい絶望的な気分になる。

 

 … …


 …このまま見逃してあげようか?


 いやいや、ダメだよ。

 それはいけないこと。

 もし、僕がここで、見逃しても、覗き癖のある者は、同じことを繰り返すだけ。

 問題の先送りです。


 見逃したら、未来の他の人に、嫌な役目を押し付けることになる。

 誰かがやらねばならないのなら…僕が断罪する。


 それに、仲間の裸を覗くなど…何故?同じ仲間なのに、そんなことするなんて、僕は、凄く悲しく、悔しい…ツラい。

 追跡しながら、暗澹とした気分になりました。


 罪を重ねる前に、なおさら、捕まえなければ。

 ええと…まずは説教です。

 それでも…直らないのなら、覗きたくなる禍根を物理的に切り取りて、女子達に勘弁してもらうしかない。

 裏切りを許さない気持ちと、仲間ならば赦してあげたい気持ちが葛藤して、剣呑な処断が頭に自然に浮かんで、気持ちが混乱した。


 でも…処刑より、マシでしょう?

 (…まだ死んだほうがマシだ!)

 混ざっていた前世の男の僕の意識が一瞬だけ飛び出して、珍しくも抗議の声を上げた。


 こんなことは、滅多にない。

 考えるだけで、よっぽど嫌だったらしい。


 あれれ…そうだね?…確かに。

 気持ちを確認する。

 …これは、確かに、酷すぎるにも程があると…思い直す。

 最初は理性的で合理的な発想だと、落とし処として良い考えかと一瞬思ったけど、意識の水面下から飛び出した前世の意識が抗議の声をあげてくれて、確かに…これは、人でなしに近い発想だと気づく。

 どのくらいの酷さかと言うと、感覚で例えれば、絵描きの目の玉を抉り取る、音楽家の耳を切り取る、歌手の喉を潰すくらいの酷さよりも、生物として、なおも酷い所業です。

 あわわわ…あまりの酷さを理解して、前世の自分に、御免なさいと、胸中で謝り、反省する。


 …ならば、煩悩を感知して締めあげる孫悟空の頭の輪の効能ある魔道具を、切り取る代わりに付ける処置などが妥当かしら?

 … … …

 待ったけど、僕の新たな代替案に前世の意識の応答は無かった。

 出て来る気配は…ない…残念。

 どうやら、さっきは、特別だったらしい。


 この時、前方からの木立や枝葉が擦れるガサガサとした音が…消えた。


 …逃げるを諦めたか観念したか体力尽きたか解らぬが、前方に気配あり。

 

 誰かであるか余計な詮索等は、この際不要…必要なら捕まえた後から考えれば良い。

 

 僕は、目前の繁みを掻き分け、前へと出た。

 そこには…









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ