復活のThursday⑤
んん…!
「どうかされましたか?姫様。」
僕の隣りで、食事をしていたアリスから問われる。
「いや、なんか今、背筋がゾッとして寒気がしました…。」
そう、せっかく美味しくご飯を食べていたというのに、突如、背中に怖気が走ったのだ。
これを感じたのは僕だけで、周りの皆は感じなかったから、きっと私事の予感に違いない。
ああ…面倒事は…面倒だなぁ…。
何処かの誰かじゃあるまいし、嬉々として、喜ぶことなど出来やしない。
僕は冒険者の道を選びながら、危難は望んでいないので、割と安定志向なのです。
ああ…そう言えば、獣人族らの、僕の姫様呼びが定着してしまった。
そんなお嬢様みたいな呼び方は、僕の柄ではないのだけれども…。
「ねえ、姫様、このカツカレー美味しいよね!ねえねぇ、姫様が東方ギルドからレシピ貰って来てくれたって、本当?」
テーブルの対面から、ラピスがカツを口に頬張りながら、質問してくる。
ラピスは盛んに僕を事あるごとに姫様呼びして来るから、定着してしまったのは、きっと、そのせいもあるのでしょうね。
でも、悪意からでもないし、敬意を表した呼び方だから…それにどう僕を呼ぼうと彼女らの自由だ。
気分を入れ替えて、僕もカツカレーをメニュー表に載らせた功績を喧伝する。
そんな僕の気分を感じてか、隣りで僕の様子を案じていたアリスも中断してた食事を再開した。
カツカレーは、カレーとカツの合体技で、手間暇も2倍掛かり面倒だけど、食堂ならば、メニューが3種類になり、お得感があります。
僕がしたのは、東方ギルドの料理人のお姉さんが、たまたま夏季期間中のアルバイトで士官学校の食堂厨房にいたのを見掛けて、要望を伝えただけです。
微に入り細に入り、カツカレーの美味しさをお姉さんに、褒め称えたら、翌日からメニューに載っていたのだ。
これは、まさしく僕の功績に違いない…エヘン。
僕は、人の名前はあまり覚えないけど、料理人のお姉さんの名前は覚えてしまった。
ラージャさんと言う。
彼女ら料理人は、冒険者を支えてくれる裏方です。
普段、陽の目をみることはなく目立つことはない。
しかし、ギルドを支える超重要な柱であると心得ている…大所帯の冒険の旅路には、是非着いてきて欲しい人材です。
この世には、社会を支える見えない柱がある。
大事なものほど普段目に付くことはない。
あるのに見えない…これは、自分が未熟だから見えないだけで、確かに存在する。
だから、変わらなければいけないのは、まず自分からだ。
自分が変わらなければ、世界はかわらない。
他責の罪は、まさに其処にある。
たとえ、他に罪があったとしても、考え方の姿勢そのものが、未来に繋がらない…。目先の利益に心奪われてはならない。他者が産んだ価値を中抜きする、合法的に奪うは、自分の価値を擦り減らすようなもの。」
あれれ…僕ったら、いつになく饒舌…
気づいたら、内心を喋ってました…いつから?
周りの子達が、僕の言葉に頷きながら、真剣な面持ちで、見つめているわ。
何となく気分がフワフワしている…
対面で、食べてるラピスが紫色のジュースを飲んでいる…ジュース?
鼻をクンクンすると、アルコールの良い匂いが僅かに漂って来ている。
あれは葡萄酒です…この陽気で揮発したアルコール成分が、僕の所に流れてきたと分かった。
昼日中から、お酒を飲む奴がいるか?!
しかも、コレってかなりアルコール度数が高いお酒です。
ラピスは、それを美味しそうにゴクゴク飲んでいる…幸せそうだ。
非難の思いが募るが、ラピスは15歳以上だから成人してるし、確か獣人族には、お酒は水と同じと、昔、聞いたことがある…種族によって常識は違うのだから、嗜められません。
仕方ない、ここは僕が我慢しよう。
僕の今世の身体はアルコールに弱いのが甚だ分かった。
昼食の間、僕は良い気分で、失言しまくりました。
嫌がらずに酔っ払いの戯言を、嬉しそうに聞いてくれるなんて、皆んな、優しいなぁ…。
…
後から、アリスに聞いたら、獣人族が昼食にアルコールを摂取するは、環境厳しい時代の大昔の古い風習で、現代で、昼間から飲んでる獣人は、常識人ならば居ないそうだ。