聖騎士の悔恨
「ダムダよ、お前の強さを、我は尊敬している。」
「ハッ、御褒めに預かり恐悦至極に御座います。」
「理由はどうあれ、お前の王家に対する忠義は称賛に値する。」
「ハッ、御褒めに預かり恐悦至極に御座います。」
「だが、女性に対して、あの様な不躾な態度はいかん。お前だけでなく、我もお前と同様にスケベと思われたのではないか?」
「ハッ、御褒めに預かり恐悦至極に御座います。」
「…褒めてはおらんわ。」
冒険者ギルド士官学校の学園祭で、王子と2人で、女学生と仲良くなる技術をお披露目しようとしたところ、失敗してしまったことを、この王子は根に持っているのだろう。
…確かに、アレは惜しかった。
アレほどの上玉は、なかなかお目に掛からない。
てっきり捕まえたものとして、アレコレどうするかを詳細に想像の翼を広げ、反応する声すらイメージして、こりゃたまらんわと、期待に胸を膨らました隙を突かれて、逃げられてしまったのだ。
…なんて、ことだ!
今まで狙った獲物を逃したことのない私が逃がすとは!
… …
「…殿下、その件に付きましては、このダムダ、痛恨の極みで御座います。」
かえすがえすに残念な念が込み上げる。
思い返せば、あんな極上な女は、貴族の娘でも、めったにお目に掛かれない。
王子は、私の正直な思いの言葉に、私を責めるのは止めた。
…
この王子は、王家に比べれば、下賤な家格出の私の言葉を…信用してくれるのだ。
戯言を弄し、浅はかな計略を巡らすなど欠点だらけの幼さの残る王子だが、他者を信用して赦す寛容さは、やはり王家の一員であると敬服する。
私には、天地がひっくり返っても、とても真似できない美点だ。
だが、この美点は危うい。
王子には、狐の狡知さも学んでいただかなくては。
もし、私が裏切ったら、どうするのか?
まあ、利用できるうちは、その様なことはするつもりはないが。
それにつけても、あの女を取り逃したのは惜しまれる。
普通の平民や下級貴族程度ならば、王家や教団の威光を笠にきて、今からでも、娘を差し出させたものを。
だが、あの冒険者ギルドだけは、まずい。
冒険者ギルドは、実力至上主義の牙城で、冒険者の自由を尊ぶ歴史を持つ。
たとえ貴族でもギルドの中核である士官に圧力を掛けての無理強いは出来ない。
あの時あの場所で、あの女士官を力ずくで手に入れるしか術はなかったと、今では非常に悔いている。
いや…待てよ。
無理強いで、無ければよいのだ。
友好的に取り込めば、結果は同じ。
見れば、王子はまだあの女士官に未練タラタラ…ここは一つ、力ずくではなく外交と策略を持ってあの女を手に入れるとしよう。
今回の件は、王子に狡知を学んでもらう良い機会だ。
したがって、私の失敗は、失敗でなくなった。
「殿下、意中の女性と懇ろになるためには、まずは情報収集と、こちらに注意をひいてもらわなくてはなりませんな…ゴホンッ」
私が話し掛けると、ソッポを向いていた王子が、コチラを振り向いた。
その瞳は、興味に見開いている。
そこには不機嫌な顔は、もうない。
フッ、掛かったな。
青少年の心理を操るなど、私には造作もない。