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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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第3王子の憂鬱

 少しばかり、愚痴を言おうと思う。


 全く世の中はつまらぬ事ばかり。


 第3王子に産まれた我は、成人に達する頃には、達観していた。

 周りの者どもは、追従ばかりで詰まらぬ。

 …全く詰まらぬ。

 お付きの護衛は、多少はマシだが、神がどうのと小うるさく融通が効かない頭の硬さが取りえのあの聖騎士だ。

 因みに我は神など、胡散臭い存在は信用してはいない。

 だが他人が何を信じようとも構わない。

 自由だ…それこそ鰯の頭の神でも、下駄の鼻緒の神でも好きに信ずればよいさ。

 

 あー、我は不幸だ。

 詰まらぬ、詰まらぬ。

 我の人生が、全てスケジュール通りに進んで行く。

 レールだ…まるでレールの上を走る電車。

 決められたことを決められた通りに。


 なんて詰まらない人生。


 兄上達は疑問に思わないのだろうか?


 不平不満はないはず。

 これ程に、贅沢な暮らしは望めない。

 催事の箔を付けるため、赴き隣席して、当たり障りのない会話をなして、笑顔でいればよい。

 なんて簡単なお仕事。

 ときに顔面神経痛になりそうだけども。


 けどまあ、概ね満足だった…この間まではね。




 今週の火曜日に、冒険者ギルドの士官学校で行われた祭事に招かれ、長兄の兄上と訪問したんだ。

 我は、兄上の付け足しだけどな。

 将来的に兄上が都市王となった際に、我がギルド担当となり兄上を補助するため、今のうちの顔繋ぎだってさ…くだらない。

 だって、先のことなど誰も分からない世の中だ。

 五公爵筆頭格であったダージリンさえ、没落して今や跡形もないし。


 アッサム王家は、元は北のアッサム辺境伯の傍系の家系であるを、この数代の政治力でのし上がり主客逆転して本家面するようになった。

 だから、また、逆転されて没落するも不思議ではない話。


 話しは逸れたけど、その学校祭には、護衛の聖騎士と共に行ったのだ。

 校内に入った所で、お祭りを楽しむために、ギルドの護衛を撒いたのだ。

 …つい出来心だった。

 校内に足を踏み入た途端、自由な風を感じたのだ。

 気のせいなのであろう。

 だが、冒険者とは、よく風に形容される。

 

 捕われることもなく、何処へ吹こうとも自由な風だ。

 我も冒険者のように自由気儘に、未知なる場所を訊ねていきたい。

 決められたレールの上を走る我が人生も、冒険者どもにあやかって、少しだけ、外れても良かろう。

 そんな気持ちが湧き上がったのだ。


 さあ、校内限定の冒険の旅に出発だ。

 もちろん、危なくないように護衛の聖騎士を巻き込んだ…言いくるめてね。


 交渉は、戯言の如し。

 我の特技の一つであるから。


 聖騎士のダムダは、敬虔な唯一神の信徒だが、我に付いた当時、あまりにも神様がどーのこーのとうるさいので、その理由を聞いたら「私は一番力あるものに従いたいのです。」と真面目顔で答えた。

 は?…どう言うこと?

 更に聞いてもいないのに「力ある者の庇護下で、自己の欲望を叶えたい。自分の幸せの為に、効率的に全力を尽くす所存です。殿下。」と自己信念を表明してきたので、その後に何点か質問して、彼の人生プランが何となく分かった。

 つまり、自己の欲望を叶えるのが最優先事項であり、その実現のためにシュア率の一番高い光りの教団と貴族のトップである王家の威光を利用するために選んだのか?

 「概ね、その様な認識で間違いありませんな。」

 質問すると、平然とそれを認めた。


 これには我も、度肝を抜かれた。

 では、何故、権力順位の低い第3王子の我に仕えているのか?

 「それは私も考えましたが、既に王や王太子には護衛がお付きになっていたので、致し方なく殿下を選びました。些か不満ですが、人生には我慢も時には必要なのですから気にしないで下さい。殿下。」

 爽やかな笑顔で答えおった。


 …おお、なんてムカつく優しさだ。


 けど、その自分の欲望に忠実な点は利用出来る。

 ダムダは、坊さんだが、女好きで博打好き。

 しかも戦闘好きで、強くて若く美しい女が大好きだと言う。

 なんて欲望に忠実で正直な奴だ…その正直さには胸がすく思いがした。

 もし、我が女だったら首にしただろうけど。

 「ダムダ、冒険者には強くて若く美しい女が多いと聞く。」

 ダムダの真面目くさった鉄面皮がピクリと動く。

 

 「我は、今日一日自由に動く。もし着いてくるのならば、お前も自由にしても良いぞ。お前が我の前で何をしようとも不問にいたそう。なに、我の護衛などお前一人で充分、そうであろう?今日は自由な気風の冒険者の学園祭、何をしても無礼講。…神もお赦しになるであろう。」

 

 人は、事実ではなく、自分の信じたい真実とやらを信じる。

 ダムダも、そんな人間原則の例に漏れなかったようた。

 若しくは、挨拶に訪れた士官学校の生徒会役員の女を舐めるようにガン見していたから、お気に召したのだろうか?

 その女は、清楚な美人で、実にバランスが取れた引き締まった見目良い体型をしていた。

 そのレベルの高さに冒険者とは美しさも関係あるのかと勘繰ったほどだ。

 平民ながら所作や言葉遣いも、貴族なみに洗練されている。

 ギルドのレッドならば、もちろん強さは折り紙付きであろう…しかも可愛く控えめで、柔らかそうだ。


 …ダムダとチェンジして欲しいな。


 もっともダムダほどに、強くはないのだろうが?

 この聖騎士の強さは化け物級で、強さだけなら[表最強十本指]をも凌ぐという、光りの教団からの触れ込みだ。

 教団内では、女の信者や修道女に、強引な手段で手を出し続け、庇えなくなり、王家への護衛として派遣することで事なきを得たと、懇意の司祭から聞いた。

 王宮内では、流石に煩悩を控えているようだが…我慢のし過ぎは心身に負担を与える。

 王宮に関係ないここだったら、放し飼いさせてガス抜きさせても良いかな?

 それに女の冒険者ならば、戦い負けた相手に、多少噛まれたとしても、恥ずかしくて他に言うことはないだろう。

 もしかしたら相手が聖騎士ならば、誉れと思うかもしれない。



 こうして、我とダムダの思惑は一致し、我らはギルドの護衛役に無理やり用を言いつけ、その隙に逃げ出したのだ。

 







 


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