復活のThursday③
ふむ…やはり、物語は面白い。
殊に僕が好むのは、歴史をベースにした物語です。
学生生活もひと月過ごせば、…大分慣れました。
お陰様で、多少ならば本を読む時間を捻出できて、嬉しさ一入です。
士官学校の憧れの図書館に入っての本の匂いは、前世でも今世でも変わりなく、懐かしき匂いでありました。
昼休み、シンバにお薦めを聞いて、借りて来た本[獣王記]を、生徒会室で、畏れ多くもアレクサンドリア様が入れてくれた紅茶の芳しい香りを楽しみながら読む。
まさに至福の時。
思わずお顔が綻びます。
「アール…読書に勤しむのを邪魔する気はないが、周りの、それらは、何だ?」
対面に座っていたエトワールが、聞いて来た。
ああ…エトワールは、昨日の圧縮学習の授業を毛ほども影響を受けてない。
こちとら、まだ脳に気怠さを残しているというのにと、内心で沸々毒吐きながら、エトワールの問いに改めて周りを見渡す。
…
僕の左腕にショコラちゃんが、蔦のように絡みつき、右側にアンネがピタリと寄り添い、背中越しにシンバが僕にもたれ掛かっている。
更に、その周りを同部屋のアリスとラピス、シモーヌさんらが寄り添い固めている。
まるで僕を守るかのよう、将棋の穴熊のような鉄壁の囲みです。
因みに、この中にジャンヌは居ない。
彼女は、お昼ご飯を一緒にした際、「まだまだ、未熟であると痛感しました。少尉殿の友として恥じない自分でありたい…修練あるのみで御座います。」と、言っていた。
今頃、また中庭で、鍛錬していることだろう。
彼女達が、僕の周りに何故集まって来たのか分からない。
僕、変なフェロモンでも出しているのかしら?
自分の匂いを嗅いでみるも…分からない。
僕、臭くないよね?
「アールグレイ様は、とっても良い匂いがしますわ。」
僕の疑問に答えるかのように、ショコラちゃんが上目遣いでウットリとしている。
賛同するかのように周りの獣人達が、うんうん首肯いてる。
獣人族は、ヒト族よりも嗅覚が優れている。
僕の体臭が、嗅がれてるって、しかも良い臭気であると認識されてるって、ちょっと複雑な心境です。
如何ともし難いので…気にしないことにしました。
ああ…紅茶が美味しいです。
皆んなが、密集して集まったのは、多分ホームシック?自宅をでてから一ヶ月、そろそろ寂しくなって来たのではないでしょうか?
[獣王記]を読み進めながら、周りの状態の原因を勝手に考察する。
まあ、僕は同居ペンギンの、ペンペン様が一緒に付いて来たから、ホームシックとは無縁であります。
今頃は、部屋で昼寝している姿が想像できる。
「だいたい生徒会室に部外者が、何故いる?」
「ここは、生徒会室。ならば生徒なら誰でも利用出来るはず。」
エトワールの苦言に、ショコラちゃんが、すかさず反対意見を表す。
ショコラちゃんは、こんなに僕に対し甘々で柔らかい対応なのに、周りに自分が不利な空気は絶対作らせない。
呼吸するかのような自然さで、さも当然と自己の意志を挟み込んでくる。
この押しの強さは、流石貴族です。僕では真似出来ない部分であります。
エトワールは、不機嫌に舌打ちするも、この件に追及はしてこなかった。
屁理屈に近い論理主張でも、高位貴族の圧力がプラスされれば、引き退ざるを得ないと判断したのだろう。
だが本来は、実務上、情報の保秘もあるので、立入禁止が正しいのかな?
しかし、今日は、授業は休講だし、取り立てて話し合う議題はないし、…まあ、黙認しても良いのであろう。
それにしても、「獣王記」は、なかなか面白い。
これは歴代の獣王の伝記であるのだが、王位継いだ直後、数秒もたたずに亡くなったり、率いるのが務めであるに、個人で諸国を漫遊してる自由過ぎる獣王もいるわで、バラエティに富んでいるが、共通しているのが皆が強い意思があり、大分身勝手で我儘な点です。…しかし魅力的で嫌いにはなれない。
ムム、待てよ、もしかして、これってシンバの自己紹介?だってこの王達は皆シンバの御先祖で血族であり、シンバはその末裔です。
…
シンバが、僕にもたれ掛けながら、喉を機嫌良さそうにゴロゴロ鳴らしている。
まあ…いっか。
…面白いのは変わらないし。
平和な日常…素晴らしい。
願わくは、卒業まで、こんな日々が続くと良いな。