最期の晩餐(後編)
暖炉に焚べた薪が炎を巻き上げ、はぜた。
他には音がない静かだ。
50年前、あの人の部屋で夕食会を開いたわ。
私達、3人、本家のショコラ様と親友のアンネと私は、貴族だったから、庶民の普段の食事が分からなかったの。
そんな話しを久しぶりに会って話していたら、あの人が自宅に誘ってくれたわ。
…実は、ワザとなの。
若いときから、そんな話しをしてると、あの人はいつもヤル気を出して、こう言ってくれるの。
「仕方ないなぁ。皆んなお嬢様なんだから。ならば庶民の僕が、貴族のお嬢様方を食事に御招待致しましょう。」
…美味しかったわ。
あの人が作ってくれて、私達も手伝って作ったのよ。
その頃には、ショコラ様もアンネも結婚してギルドを引退してたわ。
だから久しぶりに集まって楽しかった。
他のメンバーは、ギルド幹部のダージリンさんに、軍に在籍してるアナスタシアさん、ギルドを辞めて家業を継いだエトワール様、それと獣人族のシンバ、ラピス、アリス、シレーヌ、あの人を慕っているペコーさんと、ファーストさんと大勢いた。
なんだか私だけが30歳間近なのに、婚期を逃して、変わらないのが気にはなってたけど…いいの、だって私は、あの人の第一の騎士で親友だから。
世間の情勢は厳しく、北との戦端開くのは間近とか、不穏な空気が蔓延し、経済では資本主義が復活し、所有権の上限が撤廃され、利権の食い合いで、まるで人類の仲間内で共喰いしているかのよう。
政治的には、王の空位が続いて、責任者不在なまま、何も決まらず、混迷を深めていた。
全てが悪い方向へ転がっている。
そんな印象だった。
でも皆んなで、久しぶりに集まり、あの人と一緒にいるだけで、皆んな幸せだった。
そんな食事の最中、あの人がポツリと言ったの。
「この中に裏切り者がいる。」
突然の告発に、皆んな静かになった。
この中にあの人を裏切る者などいるはずがない。
この言葉は、あの人流の激励かもしれない。
だから、私は自信を持って言ってあげたの。
「この中に、貴女を裏切る者などは、いません。このジャンヌが保証します。」
あの人は、静かに微笑んだわ。
「…ジャンヌの気持ちは嬉しい。だが、その裏切り者は、鶏が時を告げる前に、僕の事を三度知らないと言うだろう。」
何故、あの人が、そんなことを言うのか、その時は全く分からなかった。
「でも、…それでいい。それでいいんだ。だからジャンヌ、覚えておいて。」
その場で、その話題は終わりとなり、別の話題に移っていった。
あの人も、笑顔で別の話題を話し出したから。
食事会の帰り道、アンネと、あの人が言った奇妙な話題について話したが、答えは出なかった。
その答えを私が理解できたのは、それから先の話しだったから。