未知との遭遇
日常の決断が、僕の運命を決別する。
先程、占い師のラーヴェさんから言われた言葉を反芻する。
人生には見えざる無数の岐路がある。
選んだ先は、五里霧中です。
人生とは、霧の中を歩む行為に似ている。
この先は、崖かもしれない。
だからこそ、他人が選んだ結果を享受するなど受け入れ難し。
たとえこの先が、崖に続く道だとしても、自分で選んだ道が、自分の人生です。
僕は、一足飛びに跳んだ。
風が吹き抜けるように景色の方が後方に飛んで行く。
「エミリーさん、お待たせです。」
涙目のエミリーさんは、僕の出現に驚いた顔をしている。
エミリーさんは僕と歳は変わらず19歳…でも前世の記憶持ちの僕から見れば幼く見える。
…女子供を泣かすものは最低!
僕の怒りが、プラグレンチが火花を散らすように発火する。
「橘流居合術…音無。」
予備動作無しの縦一直線の斬撃。
エミリーさんを掴んでいた男の腕を斬り落とすつもりで放った技は、アッサリと避けられた。
解放されたエミリーさんを、僕の後ろにして庇う。
…
改めて男達の姿を見る。
目前の年配の男は、黒っぽい無地を基調としたスーツに似た目立たない衣服を着用しているが、鍛えられて膨れた筋肉が服の上からでも見てとれる。
脱いだら凄いイメージを想像してしまいテンションが下がる…全然嬉しくない。
銀髪で端正酷薄な顔立ち。
その背は高く、僕を見下ろしている。
なんだか、「この羽虫は何だ?」と思われていそう。
この男の後方には、如何にも興味深々といった顔つきをした茶髪の少年がいるが、観察してる余裕が無いので今は詳細を省く。
ただどちらも、服の生地や仕立て具合、纏う雰囲気からいって間違いなく貴族です。
しかも、少年の方は下位ではない、かなり上位に位置すると目察した。
目前の男は、おそらく少年の護衛であろう。
その強さは…僕よりも強いとしか言いようがない。
先程の男に対して放った斬撃は、僕の最速の攻撃です。
それをアッサリかわした手練は、感服するしかない。
僕の持ち味は主に速さで、それが通用しないとなると近接戦闘では、勝つに難しい。
自分の心臓がドクンドクンと早鐘を打っているのが聴こえるようだ。