お祭りTuesday⑦
可及的速やかに、校長室へ急ぐ。
緊急転進です。
学校長め、ペテルギウスめ。
僕の自由を束縛するとはー!
胸中、不満が渦を巻いている。
至急召喚状は、通称赤紙と言われている。
前世の記憶にある戦時の召集令状を彷彿とさせる通称名だけど、関係性はない。
単に召喚対象がレッド以上であるだけの話し。
だがしかし、危険度は同等なのです。
… … …。
よし!ほぼ強制的に依頼される内容如何によっては、トビラ都市から逃げだそうと僕は決めた。
ヘタレと言うなかれ。
今世の世界は、一瞬の判断の過ちが命取り。
前世の日本のように甘くはない。
何を言うのも為すのも自由だが、代償は高くつくことを念頭に置いて覚悟しなければならない。
自分が選んだ行動の責任は、自分の生命で贖うから、真剣にならざるを得ない。
だから、逃げるに僕も真剣だけど、コケにされたと感じたペテルギウスは、きっと怒り狂って追って来るかもしれない。
…想像するだけで震えるほど恐ろしい。
僕ではペテルギウスには勝てない。
逃げる僕と、気づいて追っ掛けてくる学校長。
おそらく時間との勝負になるだろう。
自宅マンションには寄らないで、西へ逃げよう。
余分な財は、棄てていくしかない。
僕は財より命を取る。
損切りです。損して得を取るのです。
実は、この様な事態は想定して、既に、いつでも逃げれるように準備は出来ている。
その様な思念をひめ、焦りながら通常の早足で学校長室に向かう途中で、閑散とした校舎裏で言い争っている複数人の姿が、僕の目の端に映った。
…!?
アレ?今の女性って、エミリーさん?
見るからに貴族然としたオジサンと揉めているようです。
…珍しい光景ではない。
大人ならば、自分で火の粉は振り払うだろう。
それに、僕は他人の事を気にしている場合ではなかった。
なので、僕は立ち去ろうとした。
役員の責務もあるだろうが、呼ばれもしないのに介入はしない…この世界では余計なお世話である。
それに、業務はすべからく遂行されなければならない。
ならば優先順位は考えるまでもなく明白です。
でも…僕はふと立ち止まってしまっていた。
何故…?と、自分に問いかけると、脳裏に、ある風景が浮かんだ。
遥か遠い遠い昔、岸辺から見た海の波間が、夕陽に照り返されて、沖の方まで続いている。
僕は、その照り返す波を見ているのだ。
その時の感情は、…不甲斐ない、何もしようとさえしない自分に対しての怒りと悲しみ、諦めと悔いが混ざっている憤り。
…感情が迸る。
行け!と現場を指し示しているのは、僕自身です。
僕の本性は、立ち去るのを潔しとしないのか?
見て見ぬ振りをするのは嫌なのだと感じいる。
ああ、なんて頑固で意固地で、へそ曲がりなのか?!
ここは素通りで、直ぐに学校長室に向かうのが正解なのでしょう。
それが大人の常識。
でも、…エミリーさんは、きっと今、困っている。
…
ああ…義を見て為さざるは…勇なきなりデスね。
僕は、戦う前は、いつも怖くて仕方がない。
戦うと決めた時から、身体が震える。
だから、僕は、瞼を閉じ、脳裏に大きな輝く満月を描くのだ。
…
…
しばらく調息し息吹くと身体の震えが止まった。
覚悟が胃の腑に落ちたのだろう。
全身から沸々とエナジーが蒸発するほどに出て来た気がします。
さあ、僕は自由、僕は風。
あっと言う間に、エミリーさんの元へと、飛んで行く。