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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
551/617

お祭りTuesday❸

 …面白くない。


 あの女の派閥である獣人達に、わたしが占い師にしてた話を聞かれたかもしれないわ。


 今日のダイバ祭で夏季講習も半月が過ぎようとしている。

 なのに密かに期待していた占い師には振られてしまった…味方になると思い込んでいたのに。

 ちょっと、ショック。


 あの女…アール・グレイには、何故か分からないけど味方が多い。

 小生意気な言動は、貴族から反発を受けたはず。

 なのに、今では彼らから一目おかれ敬意や憧れの眼差しで見られている。

 どういうこと?いったい何があったらそうなるの?


 初日にも獣人の頭らしい男に喧嘩を売り、投げ飛ばしていた…アレは凄かった。

 でも、獣人達に喧嘩を売ったはずなのに、今では彼らから絶賛の支持を受けている。

 何故に?!ミラクル過ぎる。


 あの女自身は、何も考えずに好き勝手に動いてるだけなのに、何故か勝手に味方が増えている。

 今では、最大派閥を成している。

 このわたしが口八丁手八丁で愛想振り撒き、気を遣い、下手にでて地道な活動を勉強の合間に必死で為しているというのに、味方となったのは顔と口だけの下級貴族の男と力だけの脳筋で不細工な平民出の男だけ…。

 確かにあの女は、わたしから見ても可愛い。

 (わたしには及ばないまでも…。)

 レッドに推挙されるくらいだから、魔法専門でも、ソコソコ強いのだろう。

 (勝負すれば、わたしの方が強いだろうけど…。)

 まあ、身体の曲線美もなかなかのものね。

 (私の方が、メリハリあって大きいけどね。)


 つまり、外見では、わたしの圧勝ってわけよね。


 中身も、わたしの方が甲斐甲斐しく尽くすし、性格良いし、料理から裁縫、掃除洗濯、子供の世話まで何でも出来る。

 小さい頃は、何でもしないと生き残れなかったから、何でも出来るようになった。

 あんな周りに世話されてる学校出のお嬢ちゃんには、負けないわ。

 な、の、に、何でよー!


 …気に入らないわ。

 わたしより劣っている癖して。


 あの女には、だから、今まで数々の嫌がらせをしてきた。

 それなのに、気づいてないのか無視してるのか、何処吹く風で、全く反応がないのは、どう言うことなの?

 少しは、わたしを気にするべきでしょう?


 気に入らない、気に入らない、気に入らないわ!


 この時、わたしは苛立ちながら右手の親指の爪を噛み、足早に歩いて前を見ていなかった。

 そして、前から来た男と肩をぶつけ合ってしまった。

 「アッ…。」

 ぶつかった男が声をだし、よろけて尻餅を着きそうになっていた。

 

 もう!人が考え事してる最中なのに、トロい男ね。わたしが来るの分かってるんだから、避けなさいよ!

 わたしは、そう思いながらも、大人の対応で一言詫びた。

 「…失礼。」

 ああ、わたしったら、こんな気の効かない無粋な反射神経の反応鈍い弱々しいダメ男に、声を掛けてあげるなんて、なんて優しいのかしら。

 そう、思いながら、足早に立ち去ろうとした。


 「待てい!其処の女!」

 声を発したのは、ぶつかって来た男ではなく、その隣りにいたお付きの男からだった。

 その裂帛の気合いと音量の大きさに、ドキリとした。


 あらためて、その二人を見て、心臓が早鐘を打つようになった。

 茶髪の気品ある若者と、明らかに強者と分かる年配のお付きの男…高位貴族と護衛の騎士のお忍びであると察する。

 大抵、貴族の階位は、護衛の強さで測ることが出来る。この男は、途轍もなく強いことが感じられた。

 その強さは、物腰と声から、レッドであるわたしすら足元に及ばないペテルギウス級以上の化け物…聞けば名のある騎士であることが分かるだろう。

 だとしたら…その主人であるこの若者の身分は侯・公爵級以上の高位貴族に間違いない。


 でも、侯・公爵及びその家族には、年齢性別人相に該当する人物はいない。

 だとしたら…この若者は?!


 … … …

 

 この短い瞬間に、わたしは該当者の見当がつき、この若者の正体に、思わず血の気が引いた。

 …

 ふ、巫山戯るなぁ!

 王族がお忍びで、市井をフラフラとうろつくな!


 神官を兼ねている王族の身体は神聖視されていて、不可触が大原則。

 許可なく触れた不届き者は、理由の如何を問わず死罪である。

 あまりの理不尽な状況に泣きたくなってくる。


 ああ…ジリジリと足がコチラを逃さまないと詰めて来る護衛の騎士の目が剣呑過ぎる。


 …周りには誰もいない。


 わたしは、必死になって、助けを求め周りを見渡した。

 あああ…誰も、通らない。

 祭りの最中に催事場のない校内のこの場所を来る者は居らず、辺りは閑散としていた。


 しかし、見つけた。

 それは偶々、通り掛かったらしい…なんてこと。

 あのアール・グレイだった。

 …それでも遠い。

 あの女は…見なかったことにすれば、面倒事には関わらずに済むだろう…そして見てても、そうするだろう。


 だって、わたしでも、きっとそうするから。

 わたしは、絶望した。





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