表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
550/617

お祭りTuesday❷

 占い師の力をバカに出来ないことを私は知っている。


 でも…目に付く占い師の大部分は紛い物の偽者と思っていい。

 このエミリー・タウンゼント・ハーニーの目は誤魔化されない。

 中には多少の力を持つも、嘘を混ぜ私利私欲のため悪用する小悪党もいる。

 人の善し悪しは別として、占い師は、人間経験に基づいた心理学を駆使した詐欺師と言っても過言ではない。


 だからこそ占い師は…信用ならない。


 けど…少数の説明つかない力の持ち主は、世に確かに存在しているのを、私は知っている。


 その昔、スラムの一隅に住んでいた意地の悪そうな糞婆が、希少な本物の占い師だと、ある体験をして、知った時には、腰が抜けるほど驚いた。

 どうやら、周辺に住んでいた人達は皆知っていたみたいだけど、誰も言わないから、偶に来るスラムに不似合いな裕福で偉そうな人を騙して金をふんだくっている似非占い師の商魂逞しい糞婆だとばっかり思い込んでいた。

 だって、見た目と言葉遣いから、そうなんだもの。

 当時の幼いわたしったらスッカリ騙されてしまっていたわ。


 それから、その婆様とは腐れ縁で、付き合いは…長かったな。

 …飲んだくれて倒れていたのを世話したこともあったけど御礼の言葉など一回もなかった可愛げのない糞婆だった。



 …



 そんなある日、働いても徒労に終わった疲れ切っての帰り道、その占い師の婆様から呼び止められ、しばらく私の顔をジッと真剣な顔で見つめられてから予言されたのだ。

 「フン、待ちな。… … … …アンタは…鍵さ…この世が堕ちるか救われるか選択の鍵!つまりアンタの…あー、なんだかね。アンタは、これから昇っていく、そして月の光に出逢う、…知り合う。つまり出逢いを大切にしな。大切にするんだ。そして自分の本当の意志に従うことが正解さ。覚えときな!フンッ。さあ、出血大サービスは、これで終いさ、さあ、これを持って帰った帰った。」

 自分から呼び止めといて、訳の分からないことを言い立てて、帰れとは何事か?!

 子供のわたしは、憤慨して婆様にこの時貰った古ぼけたロザリオを握り締めて、宿にしている廃墟に帰った。


 次の日、お腹を空かして働き口に行って、糞婆の占い師の訃報を聞いた。

 酒を飲んだ帰り道、誰かに路上で刺されて殺されたらしい。

 口が悪いし意地も悪いし金に汚いから、沢山の人から恨まれて容疑者は多過ぎて見当もつかないそう。

 衛士が糞婆の部屋をあらためたら、荷物は全て片付けられ、何も無かったそうだ。

 この時、初めてわたしは、婆様が自分の寿命を予知していたことを察した。

 …最後に押し付けられるように貰ったロザリオは、売らずに今でもわたしの首に掛かっている。

 ドケチな婆様が、わたしに物をくれるなんて…変だとは思っていたのに。


 …その日、わたしは泣いた。

 飲み屋の店主によると、前日の婆様はえらく機嫌が良かったらしい。

 婆様は、自分の死を予知して、怖くなかったのだろうか…?


 あんなドケチで意地の悪い糞婆に泣かされるなんて、情け無くて又わたしは泣いた。

 けど、身寄りのない捻くれた性格の糞婆だから、世の中に一人ぐらい私が泣いても良いだろうと思ったのを覚えている。



 …



 その後、わたしの境遇は急変し、人生は昇り調子で、ハーニー伯爵家の嫡子として養子に入り、職も冒険者ギルドのレッドまで実力で昇り着いた。

 …婆様の予言通りだ。


 やはり、婆様は本物の占い師だった。


 だから、わたしは本物の占い師には一目置く。

 敬意を払っていると言っても良い。


 …


 士官学校の夏季講習の教室で、ラーヴェ・アラハンドル・ロッコの姿を見たとき、気になった。

 彼女が美少女だからという理由ではない。

 …分からないけど、気になったの。

 仲良くして、早速友人となった同級生から、彼女が冒険者の傍ら、占い師を生業としている話を聞いて、ピンときました。

 上手く説明は出来ないけど、あの占い師の婆様と雰囲気が似ていると気がついたの。


 勿論、この二人の外見から中身まで似ている点は全くないと言っていい。

 かたや若くて新進気鋭の実力の持ち主のギルドのレッド、しかも雅な雰囲気を漂わせた清楚系美少女と、ゴミ溜めのスラムの片隅で、いつも酒を飲んだくれている下品で底意地の悪い守銭奴の糞婆とは、比較の対象にはなろうはずもありませんわ。


 でも…似ているわ。

 本物が醸し出す、最奥からの迫力がわたしには感じとれるの。

 小さな頃、出会った占い師の婆様に似た雰囲気を醸すラーヴェ嬢に懐かしさを感じる心惹かれ、声を掛けようとするも、何故か機会は訪れたなかった。

 …もしかして避けられてる?

 でも本物の占い師たる彼女を味方に引き入れれば、きっと、わたしの陣営の心強い礎になるに違いないという魂胆もある。


 この未来の冒険者ギルドのエース級となる士官学校に集りし夏季講習組では、政治的な駆け引きと派閥作りの場と化している。

 ここから上に昇るには、自分の派閥を作り味方を増やさなくては勝ち抜けない。

 義父からも、そう教養を受けている。

 けど、しばらく経っても彼女が、幸いながら既存の派閥に加わることはなかった。


 だから、わたしは虎視眈々と機会を待った。


 そして、ダイバ祭なる催事が催された日、わたしは遂に客として、彼女の占いの館を訪れることが出来たの。

 …

 でも、結果は散々。

 アッサリとすげなく断られた。

 せめてこれから、どの派閥に属する目算なのか試す意味で、目障りなアール・グレイに呪いを掛けられないか尋ねたら、「自分の本当の意志に従うように!」と、忠告まで受けてしまったわ。


 あれ?コレって前にも聞いたことあるような…?

 

 でも、わたしは私の幸せのために、自分の意思で決めて動いてるから、せっかくの忠告も意味ないわね。

 あーあ、勧誘に失敗しちゃった。

 でも、わたしは上へ昇ることをあきらめないわ。

 

 だって、本物の占い師の婆様の予言は本物だもの。

 わたしは世界の命運を握る鍵!

 この世界の救世主かもしれないほどの重要人物なんだから。

 




 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ