お祭りTuesday⑤
「私が成り上がるにはキャラが被っているアールグレイを追い落とすしかないの。幼少の頃から、私の位置は、こんな処ではないと感じていたわ。いつもヒモジイ思いをして、薄くて水のようなスープを母と分けて飲み、カビた硬いパンを大事に齧りながら、冷たい地面に寝る日々には、二度と戻る気にはならない!絶対に貧乏は嫌!嫌よ!私は幸せになるのよ!…そう、いつか王子様に見初められて、一生贅沢に暮らすのだわ。そのためには王子様と出会う場所まで登りつかないといけないのよー!その私のサクセスロードを邪魔する者は、誰であろうと許さないわ!アールグレイには可哀想だけど、私の幸せの糧になるのだから、成仏してちょうだい。ああ、そうだわ!アールグレイに呪いで恥をかかせられないかしら?急にお腹を下す呪いとか、服が破れて裸になってしまう呪いとかないかしら?占い師ならば、呪いは得意でしょう?」
エミリーさんの質問に答えているのか、ボソボソとした小さな声が聞こえる。
…
「えー!何で出来ないのよ。全く使えないわね。フンッ、無能は必要ないわ。言っておくけど、このことは秘密よ!分かっているわね。私は、ハーニー伯爵家の娘なんだから!」
前方の部屋を遮っていた幕がバッと上がり、エミリーさんが突然出て来て、僕達がいることに気づいてギョッとしていた。
「やだー、そんなところに黙っているからエミリーたら、ビックリしちゃったわぁ。…では、ご機嫌よう。オホホホッ。」
どうやら、エミリーは、暗がりの中、シレーヌさんの陰に隠れてしまっていた僕には気がつかなかったよう。
でも、シレーヌさんの剣呑な気に怖気ついたのか、逃げるように去っていく。
うーーーん。男性に媚びてる時と、今聞いてしまった地の性格との落差が激しい。
そして可愛らしい外見をしてるのに、女の子って、なんて逞しいのでしょう。
その逞しさを発揮すれば、王子様に依存しなくても十分裕福に幸せに暮らせるのではないかなと思いました。
…嘆息する。
自分の幸せを求めて努力するその姿勢は、逞しくもいじらしく、どちらかと言うと好きなほうです。
そして、僕とは到底キャラは被ってないと断言したい。
だって僕は、あんなに逞しくもなければ、図太くもない。
…面白い。
正直、エミリーのサクセスロードやらの邪魔はしたくないけれど…僕の日常の邪魔をするならば、それ相応の対処を全力で処すことを決めた。
油断しては、エミリーに失礼ですからね。
それにしても…
クスクス笑いたい衝動に駆られるも堪えて肩が震える…ワクワクする気持ちが新鮮です。
こんな体験は、前世でも経験したことがない。
「ひ、姫様…?」
ま、まさか…この僕が、そんな風に思われてるなんて。
ああ…可笑しい。
…
誤解ですよ、エミリー。
僕は、そんなに、貴女が思う程に大した人間ではないし、貴女の言うサクセスロード?の妨げになるような器量の持ち主でもありません。
僕は貴女が歩む道の路傍の石に過ぎないですよ…大袈裟に認識が過ぎます。
おっと、僕の様子を見てるシレーヌさんとアリスが怪訝な顔をしているのに気付き、笑いを漸く収める。
…心配させてはいけませんね。
その時、僕らを呼び掛ける声が先の部屋からした。
「アールグレイ様と護衛の方々、どうぞお入りになって下さい。」
… … …
信じる信じないは別にしても、この占い師には、少しは、期待出来るかもしれない。