お祭りTuesday
エヴァは、護民官の役割りがある為、見回りをするそうです…なんて真面目なんでしょう。
…感動した。
なんて偉いのだ。
エヴァのようなキッチリした人がいるから、世間は回っている。
…
では僕は…エヴァの分まで祭りを楽しもうと思う。
エヴァの意志は尊重したい。
そして、同じ位、自分の意志も尊重したいのだ。
思えば、前世では、祭りなど憂鬱で全然楽しめなかった。
早く滞りなく終わって欲しいと、いつも祈ってました。
だって仕事で祭りに従事しても、哀しいだけなんです。
よし!前世の分も楽しまなくては。
・ー・ー・ー・
学校長により、ダイバ祭開催の挨拶がなされる。
暴虐のペテルギウスは、今日はおとなしかった。
流石に、王族まで招待した祭りの最高責任者に失敗は許されない。
不貞腐れたように棒読み口調の普通の挨拶だった。
依頼したプロの外部スタッフがテキパキと流れるように司会進行して、周りのスタッフも連動して動いている。
彼らはギルドの催事部門に登録しているプロだから通常の進行通りならば間違いはない。
ギルド音楽部門のプロ達によるオーケストラ並みの音楽が奏でられ、鳩が青空へと一斉に飛んで行った。
おーー。
周りから、拍手と歓声が上がった。
残念ながら、ショコラちゃん達は、午前中はスタッフとして駆り出されてるそうで、一緒には回れない。
ソロでも良いけど、どうしようかと悩んでいたとき、たまたま彷徨いているラピスを見つけたので、声を掛けてみて、一緒に観て回らないかと誘ってみる。
…
「ニヒヒッ、姫様、ボッチですかぁ?友達のいない、そんな寂しい姫様に朗報でーす。地に頭を額着けてお願いすれば、このラピス様が一緒に回ってあげてもようございますよ。但し、コレ次第ですがね。ニヒッ。」
ラピスは、指先でイエンマークを作りながら、ニヒッと小馬鹿にしたように笑っている。
…
そこで僕は、ラピスのホッペを指先で軽く摘み回しながら先導してあげた。
「はい、ラピスお嬢様、コチラで御座いますよ。不肖、アールグレイが催事場をご案内致します。はい、一名様ご案内でーす。」
「痛!イタタタタッ、痛い、止めて、御免なさい。嘘です。ちょっとした冗談です。…わたくしめが悪う御座いました。御免なさい。許して、お願い。このラピス、姫様に一生の忠誠をお誓いしますから。痛ー!」
…
…
酷くも虐待でもない。ラピスの親御さんに成り代わって、他人様に迷惑掛けないように矯正してるだけ…私の握力は500を越えているから、ちゃんと手加減してるし、やってる僕の方が心が痛くて泣きそうです。でもこの手の子は身体に覚えこませないと3歩歩くだけで忘れてしまう…だから、こちらもしばしの間我慢して、厳しくする。
…優しい顔ばかりみせるだけで事が済むなら、幾らでも僕は優しくする。
でも甘えに堕していては、この子の為にならない。
「…痛ひ、反省します。助けて、お願い!」
ちょっとは…反省したようなので、僕が指先を離してあげると、ラピスは紅くなった頬を摩りながら涙目で抗議してきた。
「酷いよ、姫様、ちょっとした冗談なのにぃ。こんな幼子に手をあげるなんて。(…チェッ、おかしいな、[暴風]は、女子供に優しいって聞いていたのに、あの情報屋め、ガセネタ掴ませたヨ。金返せ…。)」
あと、コソコソ独り言をブツクサ言っている。
ああ…読心術で心の声がダダ漏れです。
まだまだ、この子には反省が足りないようですね。
…
僕の不穏な気配を察したのか、ラピスは顔を引き攣らせながら首をブンブン振って、後退りし、丁度、僕の方へ来た獅子王族のシンバの陰に隠れてしまった。
たとえ逃げても永遠に追い続けて仕留める、僕の気質を、この間の追っかけっこで、嫌というほど本能で認識したからだろう。
シンバは、キョトンとして立ち止まり、自分の陰に隠れた怯えるラピスを見てから、僕を見た。
「白狼様、事情は分からんが勘弁してやれ。ラピスは直ぐ調子に乗るが、馬鹿なだけで悪い奴ではない。」
「そうだよ!わたし、バカなだけでワルくないよ!」
…なるほど。
「大丈夫、僕怖くない。ホラ、怖くない。」
怯えているラピスと仲直りするために、優しく呼びかけてみる。
だが、ラピスは震えて、シンバの陰から出てこなかった。
「白狼様、大丈夫だ。ラピスは馬鹿だから、一眠りして明日になれば、今日の事は忘れて元に戻るから。」
「そうだよ!わたし、バカだから明日になれば、忘れてるよ!」
…なるほど。
こうしてシンバはラピスを回収し、悠然と去って行った。
うーん、シンバ(獅子)に、ラピス(兎)を獲られた気分です。
流石、百獣の王。