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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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[閑話休題]ギャル・セイロンは見た。(中編)

 護衛の同僚であり、女騎士のジルから、部屋に招待された。


 騎士は、貴族であり、平民で派遣の私と違って城に一室貰える。

 部屋は、私の1Kと違って、奥行きがあって間取りが広く、一人で住んでいるとは思えなかった。

 「些か、狭いので恥ずかしいのだが…。」

 そうジルから言われて、貴族と庶民との天地ほどの格差を感じた。


 私の実家も貴族であったが、貴族とは名ばかりで没落している。

 私が家出してまで、この地に来たのは生来の自由と旅立ちを求めての性だけれども、扶養を減らして負担を家族にかけない為でもある。

 家族には言わない言えない理由である。

 そんな私の育った環境は、儀礼教養は身に付けたけど、庶民とほぼ変わらない。


 ジルの言葉に、引け目は感じなかった。

 両親は、私を成人まで育ててくれた。

 充分だ…感謝している。

 私は、もう大人だ。

 ジルは、こういう環境で、大切に育てられたのだろうという事が分かった。

 それはジル自身を見れば分かる。

 見目良い容姿に、高機能な身体、優秀な頭脳、騎士然とした佇まい、なにより真っ直ぐに育った、育ちの良さが窺える。

 騎士たらんとする善なる心根は、純白と言えるほどに綺麗だ…もし敵対したとしても、到底嫌いにはなれない。

 私に対しては、ちょっとアレだけど。


 「いやいや、充分広いよ。塵一つない程キレイだし、身汚い私が汚してもいけないので、そろそろお暇を…。」

 「そうだろう!私自身が毎朝掃除しているのだ…綺麗であろう。これは姉上が毎朝修練で清掃するのを真似しているのだ。理屈ではなく、やらねば分からぬことがある。自分の周りをキレイにすることは、自己の心を磨くことに繋がると初めて知った。流石、姉上、素晴らしい…。」


 それから自慢そうな顔を満面に貼り付けたジルの姉上賛美が始まるのだが、毎朝ギリギリまで寝ている私には宇宙人の話しに聴こえる。

 そして、この部屋には人物画が多く飾られていることに気がついた。

 美人でジルの面影がある…ジルの自慢の姉上様に違いない。

 それが、壁や机の上など至る所に飾られているのだ。

 …

 因みに、私にも2人ほど兄がいるが、その写真や絵を飾る趣味はない。



 「ハッ、玄関先で立たせて失礼したな。さあ、座ってくれたまえ。…さあさあ。どうも私は姉上のことを聞かれると話しが止まらない癖があってな。」

 自覚があるらしい。

 その話の間も、私の手首はガッチリとホールドされていた。

 応接間のフカフカの椅子に座らせられ、本人は、コチラを振り返りながら、「お茶の用意をしてくるから、待ってて…。」と言って、ようやく台所の方に姿を消した。



 …



 掴まれた手首が赤くなっている。

 …

 正直、もう帰って寝たいが、ここで帰るのは、幾ら自由人の私でも出来ない。



 些か、手持ち無沙汰になり、辺りをキョロキョロと見渡す。

 他人の部屋の中を不躾に観るは失礼だが、本人居ないし、部屋に案内されたからには、観てもOKなのだろと解釈して詳細に絵を鑑賞したりする。

 ほとんどジルの姉上ばかりなのだが、その中に混じって何点か別の人物があるのに気がついた。

 しかも、それは私が知っている人物です。

 …間違いない。

 私の視力は、5.0ある。


 その時、ジルが戻って来た。

 紅茶の香しい匂いがポットから漏れている。

 むむ…私が普段飲んでるものとは、違う香り。

 メイベルが殿下にお出しする紅茶の匂いに遜色ない香りです。

 絶対、高級で美味しいヤツです。

 焼き立てのマドレーヌの香りもする。

 凄い、この短時間で焼けるはずがないから、私の為に、あらかじめ準備していたに違いない。

 …

 これで、ますます帰れなくなりました。


 ここに至ってようやく私は、ジルが私に用件がある事に気がついた。

 …しょうがない。

 お茶とお菓子を出されて、手を出さずに帰るは失礼です。

 私が食べてる間は、聴いてあげよう。

 だって、友達だからね。







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