かるかん
前世の身体の記憶を呼び起こし比べれば、今世の身体は、軽い。
跳ねてみる。
あららら…実に軽々しく跳べるし。
調子に乗って手腕をブンブン振り回してみる。
自分の思い通りに身体が動くのは、素晴らしい。
しかも知覚も敏感で、風から周りを感じとれ…!
「アールちゃん、何してるの?」
急して振り向くと、キョトンと佇んでいるエヴァがいた。
あわわわ…ビックリしました。
てっきり誰もいないものと思っていたのに。
エヴァったら、直近に来るまで、危険察知に長けているこの僕に気づかせないなんて!
この一事で、地味ながらもエヴァは、隠しに高い能力を持つと知る。
高機能な隠形は一撃必中に繋がる恐ろしい能力です。…恐れ入谷の鬼子母神です。
うんうん…流石はエヴァ。
僕も、察知能力をもっと磨かなければと、知らずに傲っていた自分を恥いる。
「んんー、チョ、チョコっと身体を解してました。こ、こうしてー、血流を良くしてリフレッシュなんですよ。そんなことより、それなーに?」
誤魔化すわけではないけど、エヴァが抱えている胸元まで高く積み上がった書類を指し示して尋ねた。
聞かれた途端に渋い顔になるエヴァ。
いつも穏やかな表情のエヴァにしては、珍しい。
「これね!…これは、監査する会計の疎明資料。今回のお祭りの予算分。使途が多岐に渡り、このような事態に…間違いが無いことを祈ります。」
資料の重さに、若干前屈みになりながら、悲しそうに溜め息をついている。
ああ…そうでした。
エヴァの生徒会の役割りには、護民の他に監査があるのを忘れてました。
経理はエトワールが兼務してるけど、その中にある領収書の何十枚かは、僕がお遣いして、業者から貰ってきたものが入ってる。
監査される対象である僕が手伝うことは叶わないので、残念であるが、同時にホッとする。
ごめんねーと両手を合わせながら、手伝えないことを謝る。
エヴァは、どういたしましてと苦笑しながら、ゆっくり歩き去って行った。
友よ、大変な時は、大抵一人なのです。
今度、元気づけるため、モロゾフのチョコパフェを奢ってあげよう。
エトワールから、実家の菓子製菓モロゾフのチョコパフェフェア期間中につき、特別9割引食べ放題のペアチケットを何枚か貰っているのだ。
もしかしたら、僕、エトワールから餌付けされてるのかもと思わないわけでもないけど、これは友達故のサービス範囲内であると解釈する。
うんうん…きっとそう。
…
「姫様いたーー!サボってるの良く無いよ!私探したし!職人と貴族が喧嘩しそうだから、おさめるね。早く来るよ!」
脳内でいろいろ思索に耽ってたら、突然現れたラピスに手首を掴まれて、引っ張られる。
えーー、そんなの放っておけば、勝手におさまりますよ。それかラピスが吹っ飛ばしてやればよい。
この子なら躊躇しないだろう。
「ギルド職人の荒くれ共は、私でも手強いね。貴族が相手で、一般人の子供も巻き込まれているよ。」
[精霊の脚]発動!
僕は、ラピスを引き摺るように、現場に向かった。
…
このあと、現場に着いた僕は、[白狼の咆哮]を発動して、駆けつけ集合した獣人達を指揮して、柄物を手にした乱闘直前の関係者30人を分けさせて、事をおさめさせた。
…子供は、無事だった。
元々は、肩が当たったことからのくだらなき争い。
よい大人が、子供を前にして軽々しく争うとは何事かと思う。
僕は、刀とは使わなければ、抜くべきではないと思うのだが、如何?