耳を澄ませば
ダイバ祭に、さる偉い人達が隣席されると、アレクサンドリア様から聞いた。
ラピナス公爵令嬢が、偉いと形容するならば、もうその上は…王族しかいないじゃん。
…何故に来る?
そして何故に招待するのか?
僕は、友達以外の貴族とは、あまりお近づきにはなりたくない。
ましてや、王族なんて。
ロイヤルファミリーは、王妃以外は血族の3親等内と決められている。
王族の誰が来るのか分からぬが、護衛と称して、見慣れぬ眼つきの鋭い人らが校内を彷徨くようになった。
先行しての下見らしい。
既にダイバ祭は、規模が大きくなり過ぎて、僕らの手を離れた感がある。
ギルド上層部から学校長を通じて、アレコレ指令が来るようになったし…たかが、学校の一行事に過ぎないというのに大袈裟にしすぎる。
とにかく校外まで宣伝して、お客様を呼び込み、参加型の冒険者ギルド主催の一大行事と化していた。
これって、いったい誰の思惑?
少なくとも僕ではないのに、何故か僕が発案者の一人に数えられていた。
いや、確かにそうだけど、そうではない。
…
…釈然とはいかないが、これはアレクサンドリア様やエトワールが僕に気を使ってくれた結果のようだ。
…嬉しくない。
しかし、好意で為してくれたことなので、僕の意に沿わねども、今更無しにはでき難い。
ご機嫌なエトワールや、庶民の僕に好意的なアレクサンドリア様に対し、口が裂けても、余計なお世話だとは言えないしなぁ。
…
校内を巡回しながら見渡せば、ダイバ祭開催の派手なポスターが刷られて、至るところに貼り出されていた。
至る所に見慣れぬ業者が立ち入り、賑わっている。
総じて、WaiWaiGayaGayaうるさいし。
まるで、これから新しく作られていく街中のよう。
ここ士官学校は、普段、学生達で賑わっているが、夏休み期間、全学生達が一時的に去り静けさを保っていた…この間まで。
ああ…人がいない静かで落ち着いた雰囲気の良い場所だったのになぁ。
でも…まあ…僕は、今のこんな雰囲気も悪くはないかな?と思う。
荒々しくも何かを期待させるエナジーが辺りに満ち満ちて、楽しい雰囲気が周りから感じられ、フワッととした幸せな気分になろうというもの。
前世の僕は、争いの仲裁ばかりしていたからか、うるさいお祭りは嫌っていて、静謐で不争な孤独を好んでいた。
やはり、魂は同じでも、前世の彼と僕は違う。
僕は彼から多大な影響受けてるけど、今世の僕は、ちょっと好みが違うのだな…うんうん。
明日へと希望が続いていく。
幸せな空気が流れていく。
校舎から別の校舎棟へ、ひと気の無い場所を渡り歩く巡回途中、大地に足を着け立ち止まり、自らの身体を抱き締めた。
…
空を見上げ、耳を澄ませる。
…
…
…
今世の時代を、僕は、今、生きている。
アルフィン・アルファルファ・アール・グレイとして生きているんだ。
せっかく、この世界、この時代に産まれ落ち、人生を歩んでいるのだから、巡り合い楽しまなくては、勿体無い。
…自分の人生を大切にしたい。
尊重したいのだ。
それが、幸せに繋がる気がする。
ただ僕の場合、そこに自他の区別はない。
実に曖昧なことに曖昧なのだ。