祭り前
文化祭は、生徒会役員の公爵令嬢と天才の発案によるサバイバルを大幅に縮小した構内オリエンテーリングと拳闘大会を加えて、ダイバ祭と名うって、開催されることに決定した。
まあ、学生40人プラス教職員では、そんな規模は大きくしようがございません。
模擬店も、2、3店舗くらいでしょうね。
第一スタッフが足りないから、どだい大きな催しは無理です。
…と、思っていた時もありました。
構内のアチコチで、トンテンカンテンと工事の音が聞こえている。
「足りないならば、盤外から駒を足せば良いのでは?」
僕は何処かの公爵令嬢がおっしゃっていたのを思い出していた。
工事してるのは、依頼を受けた技術系のギルド員です。謂わゆる高技能をお持ちのプロフェッショナルです。何人か顔見知りもいて、笑顔で手を振って来たので、愛想良く振り返す。
彼らの作業は、観ていて飽きない。
豪快かつ精緻、全体をトータルに考えながら細部にもこだわっているのが、よくよく見ると分かる。
「…素晴らしい、凄い、流石です。」
天才総代から、進捗状況の視察を言いつけられ、休み時間に回っているけど、僕が真似出来ないほどに彼ら工事請負人の作業は正確で速い。
まるで、全力のトップスピードを常時維持してるかのようで、本当に凄いよ。
完璧以上で、指摘することが何もない。
「いつもありがとうごさいます…頑張って下さいね。」
だから、いつも頭を下げて感謝の言葉を掛け、立ち去っているだけ。
皆んなは、仕事に集中して応答はないけど。
うーーん、コレって意味あるのかしら?
疑問に思い、授業中に隣りに座っているエトワールに尋ねたら、ソレは絶対必要だと言う。
しかも準備作業の要だとキッパリ言いきった。
それから聞いた話しでは、彼らは、今回、ほぼボランティアに近い依頼料で受けてくれたというのだ。
その依頼料の金額を聞いて驚いた。
…ええ!!こんなに依頼料低いのにあの高レベルなの?!
自所属のギルド愛が深いのか…奉仕の心?或いは職人の誇りや矜持のなせる技なのか?
驚いた後は、少し胸の辺りが暖かくなる気持ちとなった。
…フフッ。
世の中は、まだまだ捨てたものではないなと少し嬉しく思うと同時に、彼らを敬する気持ちになった。
まあ、巡回は、そんなに手間ではないし。
それに感謝の気持ちとは、他人から強いるものでなく、自然と頭が下がるもの。
彼らのプロ意識に敬意を表したくなる。
でも、たまにエトワールと代わってあげよう。
きっと僕と同じ気持ちに違いないから。