会議で踊れ(前編)
「やっぱり、記念になるような催しは必須ですわ。」
公爵令嬢が宣う。
「うむ、同感だ。…ただ具体性に惑うな。」
それに天才と謳われる今期夏季講習の総代が同意した。
…
この人達、何言ってるの?
疲労困憊した僕の頭では、脈絡なく始まった催し云々の二人の会話が理解できない。
隣りで、やはりエヴァもキョトンとした顔をしているので、多分に分かっていない。
僕だけではないことに安心する。
エヴァの目の下に隈が出来てる…お疲れですね。
かく言う僕も、きっと似た顔つきに違いない。
その後、二人の間で会話は弾むが、僕とエヴァは傍観者と化した。
…だって話しについていけない。
まるで、霞が掛かっているかの如く意識が朦朧としています。
起きて聴いてるだけで、精一杯…何も喋る気にもなりゃしません。
…
僕の日常は、最近、殊の外平和だ。
生命の危険がない素晴らしさを噛み締める。
争い事に、僕は向かない、乱は望まない。
僕は、世界の片隅でひっそりと平和に暮らしたいだけなんだけどなぁ。
隣りにいるエヴァと僕の体型は似ている。
顔形大きさ、身長が同じなとこに親近感を覚える。
僕の方が一部分厚みがあるけど、太っているわけではない。
多分、筋肉がないぶんエヴァの方が小さく痩せて見えるは微量な誤差です。
多分、僕よりも全般的に後衛の魔法・学術系特化なのだろう。
サラサラな黒髪が肩より長めで、今日は一括りにまとめて、ポニーテイルにしてある。
コンパクトで清楚で可愛い女の子です。
その内実も、周りに気を使い優しく物静かな頑張り屋さんな優等生。
前世で僕が知る大和撫子に一番近い存在。
優しげな儚さに、折れない柔らかな強さを秘めている…そんな感じがします。
その中身も外見も極めて優秀なのに、目立とうとしない佇まいが、きめ細かい柔らかさと、大らかで控えめな性格を表していて、抱き締めて頬ずりしたいほどに素晴らしい。
ただ、今日のエヴァは、流石にお疲れ気味なご様子で生彩を欠いている。
僕と一緒で、かろうじて眼は開いてるけれども、さっきから一言も言葉を発していません。
…お気持ち、お察しします。
…
僕は、美少女のエヴァを観て、疲れた心を癒しながら、うら若き公爵令嬢と稀代の天才総代の二人の会話を、聞くこともなく聴いていた。
要は、今期のトップの勤めとして、功績が欲しいらしい…と解釈できた。
あくまでも僕なりの解釈です。
本当は、もっと背景に理由があるらしいけど、僕には、それは見えてこない。
…いや、なんだか見たくもないけど。
人には分があって、僕には過ぎたるものだと心得ている。
僕は、無難に勤め上げたい。
だが、彼女達にとって、その功績は必須で常識で、かつチャンスと捉えているようだった。
うーん、本性が怠け者の僕には真逆の思想ですが、反対する気力すらなく、反対材料もありません。
僕は、どちらかと言うと足跡など残したくない派ですが、そこら辺は割とどうでもよく、融通は効きます。いわゆる中道派。
だから、残りのエヴァが反対しても、もはやこれは決定事項。
これからの生徒会の進路決定の形が決まったのを観た思いです。
うーーん、でも面倒かもしれません。
何故なら何となくこれからの展開が読めたから。
偉い人達は、企画立案するけど、大変面倒な現実との擦り合わせをしてくれない。
起案を現実化するには、周辺との軋轢による諸問題が必ず発生する。
公爵令嬢たるアレクサンドリア様は、決定と命令には慣れているけど、現実の地平線に立って、次々と泡のように発生する問題解決の経験はないだろう。
エトワールも、シンクタンク的役割りは担っても、泥くさい実行指導者役は慣れているとは言い難い。
理想を現実に降ろす実行責任者の優劣が、起案の成否の鍵を握っている。
僕は、実は…嫌々ながら慣れている。
役割りが回って来る可能性が高い。
そこで、僕は釘を刺すことにした。