授業Monday
うん…スフレパンケーキ、美味しかったなぁ。
…
楽しい思い出を反芻する。
人は、心の支えとなる思い出があるから、ツラい現実を耐えることが出来る。
だから、来たるべき戦いに向けて、今のうちに楽しい思い出を沢山作っておこう。
現在は授業中、教室でミリオネラ教官から、数学の教えを受けている。
大砲の弾道計算、魔術発動に係る数理、経理、金融にも数学は使われるとかで、高等数学を習っているものの…分からない。
全く理解出来ない分野の知識を、理解出来ないまま聞かねばならぬのは、酷く苦痛だ。
おそらく僕達に有益な知識なのだろうとは、朧げに思うが、悲しいかな、基礎知識をなおざりにしていたので理解が追いつかない。
この分野は、前世でも発達していたはず。
何故、その時に習得していなかったか悔やまれる。
ああ、もっと知識と理解に貪欲になっておけばよかった。
僕もまさか、前世まで遡って後悔するとは思わなかったよ。
ミリオネラ教官の紡ぐ言葉が、僕を焦燥と退屈の狭間で眠らす呪文のように聴こえる。
なんてもったいない。
送り手に見合う受け手でないことが、もどかしい。
しかし今、理解を試みることは、ツルツルの断崖絶壁を、力無い素手で登るようなもの…だから今回は戦略的撤退なのです。
よし、耳に引っかかった疑問点だけ、書き出して、後で調べてみよう。
諦めモードに気分をチェンジして、楽になった心で燦々と陽の光り差す景色を窓枠から覗き込む。
うむ、夏の強い陽射しに照らされて、今日も世界が美しく輝いてみえる。
…
…
…
ん?夏の陽射しにウツラウツラと暇になったので、来たるべき戦いとは、何だとは?との疑問に答えましょう。
もちろん、それは対[蜘蛛]戦であります。
今まで彼奴らとは直接接触してはいないが…感じるのだ。
僕は、自由を何よりも尊ぶ。
自己の意志により自由自在に動き回るが理想です。
他人の迷惑にならないよう、自分勝手に周りの人々の一助に成れれば良いなと考えたりする。
彼奴らは、そんな僕の自由を、概念を駆使し見えない糸を紡ぎて世の中に網を巡らして、妨げるのだ。
安穏な怠け者とさえ言える平和と眠りを、こよなく愛する僕の潜在的な敵です。
身勝手に動きたいのに、あちらこちらに網を張り巡らして動きにくい…憤懣やる方なし。
彼奴らを許してはならないと本能が告げる。
彼奴らは、眠る僕の逆鱗に触れた。
彼奴らは、人類と僕の共通の敵です。
だから見付けて駆除しなければならない…のだけれども、実はあまり気がすすまない。
ああ…僕は怠け者です。
そして非戦主義者だ。
争い事は嫌い。
話し合って、どうか活動停止してくれないかしら?
…正直退治するは面倒なのです。
べきな事柄なのに、未だに態度がさ迷う。
この僕の未熟者め。
まあ、しかし、僕の安眠を邪魔するような怪異は、先日、殲滅しちゃいましたが…あれは仕方ない、自業自得というもので…依頼だったし。
お仕事はキチンとやらねば、生活費を稼がねはならぬのです。
働きて、正当な報酬を得るは、人類社会に生きる者の務めなのです。
それに5000年間、他人に大迷惑を掛ける地獄のような懲役刑を炎滅して終わらせたのだから、きっと彼らも終わる瞬間感謝してくれたかもしれない…うんうん、きっとそう。
とにかく安眠妨害するものは許すまじ。
これは、掟と言ってよいほどに僕の中で確定しているものの、その他は、わりと曖昧でグタグタでいい加減なのです。
[蜘蛛]は、卑怯にも姿を現さない。
だから、話し合うことも出来ないのけども。
或いは、これは彼奴らの習性なのかもしれない。
会わないから、本当に存在するのか分からないけど、現象面からいるものと推測される。
実際、ダージリンさんの実家のファーちゃん家が、その被害にあってる。
糸で人類を縛りて体液を啜る[蜘蛛]の姿を思い浮かべた。
かなり、このイメージに近い気がする。
人をマリオネットのように操り、不幸へと誘なう。
彼奴らは、人から産まれはしたが、人の生き血を啜る吸血鬼と同義で、もはや人ではなしと解する。
今はまだ朧げな概念に近い僕の想像です。
でも実在するのであろうと感じるのだ。
そしていつかは、対決する予感がする。
だから、備えなければならない…まだ時間がある今の内に。
…
…
…
夏の陽射しの美しい光景を観ながら、そんな妄想に興じていたら、授業が終わりました。
それにしても文系の僕に、数学は剣呑です。
僕、チンプンカンプンだったけど、皆、分かっているのだろうか?
分かってないの僕だけだったら、どうしよう。
…超不安になる。
ここは下手に出て、エトワール先生に教えを請うべきであろうか?