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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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サラマンダー殲滅

 「紡ぐ、紡ぐ、車輪は廻る、光り車よ、廻れ。」

 (ことわり)に則ったオリジナルの呪文、それに火車をイメージしながら、更に火のエレメンタルの息吹きを加えてみました。


 何事も実験、実践、試行錯誤ですから。

 失敗を恐れては、前へは進めない。


 常に前へ。

 実際に一歩、震える足を前へ進める。


 経験を幾ら積もうとも、一事は万事、恐いものは恐い。

 修練を幾ら積もうとも、僕自身は、か弱い乙女のまま。


 …自分の細腕を見る。


 前世と比べると、随分と細くて、視線も低く、全体が小さくコンパクトになってしまった。

 大きくなったのは胸くらい…戦力外です。

 これでは、掴まって力で押さえつけられては抵抗も出来ないまま負けてしまう。

 油断は出来ないし、油断してはならない。

 弱い怪異とはいえ、恐ろしいことには変わりない。

 あの怪異達は、人の私利私欲、身勝手、目を背けていた醜い悪意の塊の成れの果て。


 追い詰めれば、何をして来るか分からない。

 考えうる全ての最悪の事態を想定する。

 何故なら想定外の事態には、身体は急には動かないから。

 だからこそ、訓練で動きが身につくまで何万回もなぞるのです。

 咄嗟の急展開には、訓練を積んだ身体の方が勝手に動く。

 僕の意識よりも優秀です。

 優秀な身体だけには任せられない。

 相応しい勇気ある心になりたい。


 未来ある士官候補生達を、絶対護る覚悟を腹に据えよう。

 たとえ何があったとしても…

 それは震えるほどに怖くて、切ないほどに寂しい気持ちになる。


 …耐える。


 …


 …


 

 左脚を一歩引き、腰を沈めて刀に手を掛け、鯉口を切った…震えが止まった。


 覚悟が腹に座ったのだ。

 怪異は、エンジン音とも笑い声ともとれる大騒音を撒き散らしながら、凄い勢いで近づいて来ており、僅か100メートル目前まで迫ってきていた。

 これ程の個体数で押し寄せる速さが尋常ではない。


 …なんだか津波みたい。


 「刮目して見よ!」最初から全力前進です。

 うかうかしてると間に合いません。

 次いで、唱えていた呪文の最終部分を急ぎ唱える。

 「…炎よ、刃となり我が敵を切り裂け!」


 「炎滅斬。」

 スイッチを入れたかの様に、火のエレメンタルが全身を駆け巡り、焔に串刺しにされたように身体が熱くなる。

 神速の抜刀を、指揮棒を振るかの如くに軽く振るった。

 … … …

 手応えが…軽すぎる?!

 でも…斬ったはず。


 だが怪異の勢いは止まらないまま、約10メートル先まで迫って来た。


 身体の内側からくる熱さと、外側の術式発動の熱さのサンドに、汗が一筋頬を伝って落ちた。


 前面は、見渡す限り数万もの怪異の群勢に埋め尽くされている。

 奴らの突進の圧力に耐えきれず、士官候補生の誰かが悲鳴を上げたのが聞こえた。


 ダメか?…固唾を飲む。

 呪文抜刀の効果は、まさに約1メートル程の直前まで迫った時に現れた。

 

 まるで風に吹かれ幻が消えるかのように、怪異達が悲鳴をあげる間もない程に、前列から順番に切り裂かれ焼滅していく。


 …遅いよ!


 灰となり塵となって風に流れて消えていく。

 実に、まさに壮観な眺めだった。



 新技のその効果は絶大。

 あっという間に、道一面に蠢いていた怪異達が焼失して、消えていった…。




 …



 …




 おお…


 溜め息を一つ吐く。


 …自然と固まっていた緊張が解けた。


 ついで感動と驚きが身体を駆け巡る。


 ま、…魔法と抜刀の合体技が、こんなにも凄いとは…!

 自分でもビックリ。

 

 いやいや…待て待て。

 結論を早急に出す必要はない。

 今回の怪異ハエが弱過ぎるのもあるのだ。

 そ、それに魔法陣でブースト掛けたし、炎のエレメンタル効果もある。

 更に覚醒言語の効果も加わっていますから…

 

 アッ…


 僕は、既に足腰が立たぬ程に、腰が砕けそうで、脚がガクブルだと、今、気付いた。

 …でも、ここでは必死で立つと決めた。

 だ、だって、ここで座りこんでは、さすがに格好が悪すぎる。

 僕にも、士官候補生達の手前、見栄もありますから。


 あれ程に、道幅いっぱい広がって騒いでいた怪異達は、見える限り、全て消滅していた。


 …跡形もないや。


 埠頭先の遠く見える、道の遥か先に居た少数の怪異達が、来た方へ逃げだして行くのが…見えた。


 よし…アレは、ジャンヌ達に任せよう。

 

 もはや、ガソリンが一滴も残っておりませぬ。

 些か、オーバーキルだったかもしれません。

 ついさっきまで怪異達で賑わっていた埠頭先へ続く広い道には、今では何もない。

 元の暗闇と静寂に戻っている。



 でも…


 僕は、士官候補生達を振り返って見渡した。

 …

 皆、無事でしたか…一安心。


 石のように硬直し固まっている者。

 腰が砕けたように座り込んでいる者。

 様々ですが、逃げ出した者は一人も居なかった。


 むむ…凄い。

 他人事ながら、誇らしい。

 僕が、君達と同じ実力だったら、きっと脱兎の如く逃げ出していた。

 まあ、技の反動の影響などで危害が加わらないように、全員の前に防御魔法陣を構築していたから、君達は、どっちみち大丈夫だったよ。

 うんうん…そこら辺は、僕、抜かりないから。


 そんな事を皆に説明しながら、「良くやりましたね。」と誉めたら、「それを早く説明しておいて欲しかった!」と、皆に涙目で怒られました。


 あれれ?何故に?

 …むむ、解せぬ。









 

 

 

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