サタデーナイトフィーバー③
クシャ准尉の思惑は分からないけど、大人しく指示に従ってくれている。
しかし、僕とジャンヌを頭にして二手に分かれるとき、ジャンヌの方の班にしたら、その時だけは、強引に僕の班が良いと主張して、きかなかった。
理由を聞いても答えない。
君…駄々っ子ですか?
それ以外は、反抗的ではない。
そして、何故か位置取りが僕に近いのだ。
振り返れば…クシャ准尉がいる。
アレ?…ムムム?
もしかして僕が悪さしないよう見張られている?
僕、悪いアールグレイじゃないよ!
僕がジト目で見ても応えない彼の思惑は分からない…しからば放置ですね。
考えても解答が出ない問題は、一旦脇に置いて、気持ちを切り替える。
隣りで、ルピナス准尉が、そんな僕らを観て、チャシャ猫笑いをしていてギョッとした。
ルピナスさん…あなた、標準装備の令嬢然とした気品ある表情が外れてますよ。
・ー・ー・ー・
僕の作戦は、こうです。
怪異ハエは、週末の夜半時、埠頭周辺を集団で爆走する習性がある。
巣と思われる埠頭先のトンネルから、出て来た処を、埠頭の根元で、アールグレイ班が迎えてうつ。
その頃、隠れていたジャンヌ班が、埠頭先のトンネル前において阻止線を張る。
そうなれば、もはやハエが幾ら速かろうとも、逃げたとしても袋の鼠です。
ハエは、音が五月蝿く動きが速いだけで、弱い。
根元から追い立てて、範囲を狭めていけば、戦いの経験がない士官候補生でも何なく打ち取れるであろう。
実にシンプルで効率的な作戦…決めた僕を褒めていーよ!
え?!誰でも考えつく簡単な作戦だって?
…うん、その通り。
作戦とは、古今東西輩出した天才達が考え尽くしてしまっている。
だから大事なのは、個別に合うように作戦を選んだり、修正することで、天才でなく凡才でも誰でも努力さえすれば、参謀になれます…こんな僕でも。
そして、小部隊の指揮とは、ハッタリと声の大きさで、何とかなります。
大事なのは、決断の速さ、巧遅より拙速を尊びます。あと、タイミングと度胸かな?
およそ全体の1割…芯の部分…根幹さえ間違わなければ、あとは考え過ぎない。
戦いでは、100%成功など、人間技ではない。
50%成功ならば、超優秀で恩の字です。
それをアレコレ言う人は、何もやらずして、周りで後から賢しげな口をきく陽炎のようなものだと思って気にしてはいけない。
離れた安全な場所から、情報が全部揃った後からならば、猿でも適正な判断できますから。
状況が変わる渦中で、適宜適切に判断し、決断、指揮することの、何と難しいことか…至難の技です。
その様なことを、怪異を待っている間に暇つぶしに呟く。
…格好悪いけど、これから数多く失敗するであろう士官候補生達の心の負担を減らしてあげたいから。
リスクは、事前にどんなに減らしてるも、無くなることはない。
運が良ければ生き残るし、運が悪ければ終わる。
生きてさえいれば、何とかなります。
前線指揮官は、前面の敵を切り開くのに心を砕くのみです。
暗闇に、僕の小さい声だけが響いている。
この時、呼称J1からA1宛てに、無線で、「対象発見、北方へ進行中、…J1から6は配置完了。」との報告が入った。
遠間から、ブンブン聞こえ始めている。
来たか!
士官候補生達の緊張が伝わる。
あらかじめ、号令を掛けたら僕の後ろで横一列にラインを作り、怪異を漏らさないようにとの指示はくどいほどしてある。
ローラー作戦で、怪異を埠頭の突端まで追い詰め、南北から挟み込んで殲滅する。
指示どおり行動したら、生き残る確率が格段に上がる。
…まあ、今回の怪異は弱いし、僕とジャンヌさえいれば、ほぼ片がつく簡単な部類の案件ですから皆無事に帰れるでしょう。
でも、戦いの場に絶対と言う言葉はない。