憐憫
襲撃された日は、新たに結界を張って、寝た。
起きたその日の朝にギャルさんから謝られた。
「ごめん、アールちゃん。でもアレ、私の結界の弱い箇所から無理矢理逃げていったんだよ。他と違ってかなり力があるよ、アレ。」
…いいよ、いいよ、気にしないで。
「む、ギャル、ミスするとは情け無いぞ、我輩を見習え。」
腕を組み、難しい顔してウンウンと頷くクラッシュさん。
あなたが、それ言いますか?
でも、ギャルさん、本当にいいのです。
なんとなく予想はしてました。
アレほどの悪業に凝り固まった変異は、おそらく[白響]では倒せません。
消えたモノは、都市内に漂う業がアレの悪業に触れて一時的にに具象化したものでしょう。
だから簡単に浄化して消えたのです。
ですが、アレにとっても[白響]に含まれる神気は、人間に例えれば強酸を掛けられたようなものです。
…弱っているはず。
そして、戻ってきます、必ず。
だから、後は待てば良い。
・ー・ー・ー・
…なんだ、なんだんだ、やつらは、あと少しだったのにぃ
痛ぇ、痛いよぅ、まるで酸に触れたように痛むよう、酷い、なんて酷いやつらなんだ、小さな子を、あと一人やるだけなのにジャマしやがって。
なんて酷い奴らなんだ。
オレは被害者だー、奴ら訴えてやるぅ。
七人目を、あと少しでやれたのに、ジャマしやがって…ゲロ。
約束まであと一人だ。
あと一人やればオレは救われる。
こんな姿はオレじゃない、オレじゃないんだー。
変われるんだ、あと一人やればオレは変われる。
そしたらどいつもこいつも許さない、オレはみんなの為にやってあげたのに…徴収した金を分配して部下の正規の給料に足したり、貴族どもに献上したりしたら、みんな喜んでたじゃないかよー。
オレだって少しくらい良い目に会っていいじゃないか、なあ、そうだろ、これだけ一生懸命働お前たちの為に働いたんだよー。だからオレだって幸せになっていいはずだろう…。
痛いよー、皮膚からブスブスと煙が上がっている、治すには奴らの血が必要だー。苦しみぬいた奴らの血を抜き取って浸せばきっとなおる、ゲロゲロ。
都市内でも、人が立ち退いた廃棄された一角にソレは隠れていた…ジメジメとした暗がりに。
「サベツヨー、サベツヨダワーユルサナイ、シャカイテキセイサイをクワエテやるー。」
概念変異体のキャベツが漂っている。
その緑色のひとだまを、餓鬼と化したアレが掴みワシャワシャと食べ始める。
むしゃむしゃ。
「ギャーサベツツヨー、グハーササササべべ、ガハッ。」
むしゃむしゃ ごくり。
許さない、善良なオレを迫害しおって、オレは絶対にオマエラを許さない…。