サタデーナイトフィーバー②
貴族が平民に指図されるのは、さぞ嫌であろうな?
士官候補生達の心の内を慮る。
この12名の中で平民は、唯、僕一人。
なのに、僕が指揮官。引率係。
…それとなく周りを見渡す。
しかし、彼らは、内心はさておき、そんな素振りは外面には露ほども見せなかった。
流石はギルドの士官候補生の面目躍如です。
だいたいの貴族は、高位になるほど平民とは交流はないから、摩擦も起こらない。
彼らからしてみれば、平民など、通り過ぎる猫か、地べたを這い回る蟻のような感覚なのだろう。
平民を見下し、厳しく当たるのは、普段平民と接する機会が多く、直ぐ下の平民との違いを意識したい低位の貴族に多い特徴です。
そんな歪む癖を標準装備しなければ貴族になれないのであるなら…不用であるな…と思った。
実際、下級貴族がなくても世の中には支障はない…僕が居なくとも変わらないと同じ…世界の仕様です。
人は人なり。
或いはドングリですね。
そんな細かな違いを気にしてるのは、人だけです。
…クスッ。
少し、笑ってしまった。
「何が可笑しい!?」
おや?平民如きの機微を気にする人がいましたか?
チラリと目の端に留めると、やはり、クシャ男爵の嫡子でした。
僕の方を、キツい表情で凝視している。
「いえいえ、何でもございませんよ。」
…
僕は、平和主義者だから、人と争うは好みませんし、諍いは望みません。極力避けるが吉です。
クシャ准尉は、どうやら根に持つタイプらしい。
…そんな小さい心根では、女性にモテませんよ。
どうやら、教室内で、僕が悪口雑言をマシンガンを撃つが如く浴びせて、立ち去った件を、薄っすらと顔を紅くして怖い顔して睨んでくるほどにお怒りのようです。
…ですが、それ以上は追及してこなかった。
あやや?…彼は私情よりミッションを優先してくれるらしい。
たかが人なり、されど人なり。
そんな言葉が思い浮かぶ。
考えてみれば、クシャ准尉を含めて彼ら士官候補生達は、護民の騎士と言われるギルドのレッドを目指す若者達…その志しは尊い。
しかも、夏休みなのに叩き上げの平民や獣人と交じりて学ぶ夏季講習を選択した、意欲ある貴族の若者達です。
…
どうやら、僕は、またしても先入観に捉われていたようです。
…いけない、いけない。
リセットです、ニュートラルです。
まずは、兎のように警戒するは、僕の標準装備ですが、彼らは、現在の階級や経験からも、僕が導く後輩であり、現場をまだ知らない雛鳥でり、将来的には、ギルドを背負ってたつ幹部候補生、エリート達です。
ならば、こちらから歩み寄ってやらねば。
危き状況にならぬよう厳しく、潰れぬように優しくしよう。
僕は、少尉止まりだけど、彼らは、これからも、きっと偉くなる。
だから、受けた恩は、将来返してくれれば良いよ!
僕の、行動指針には、誠意と打算、どちらにも跨るのです。
足場は多いに越したことはない。
足元は不常ではなく、よく崩れるから。
そんな時でも、自分が選んだ行動は最後まで貫きたい。
もし、僕が、これから彼らに幻滅することがあっても、別の足場たる打算からミッションの最後までは、態度は変わりなきようにすることができる。
何事も初志貫徹するには、綺麗事だけでは成し得ない。あざなえる縄の如く、事由は複数で種別が多岐に渡る方がよいのだと思う。