サタデーナイトフィーバー
研修日は土日を選定した。
これは、ミリオネラ・グラナダ中尉からの、あらかじめの情報収集の結果、決定した日取り。
退治する怪異の名は、ハエ。
夜間、人が寝ている頃に、海岸線や埠頭に出没して、ブンブンと騒音を撒き散らしながら、ひたすらに五月蝿く走り回る怪異だ。
…何という奇妙な習性なのか?
怪異は、生前自ら生み出した悪想念や概念に引き込まれてた腐魂の成れの果てです。
超古代の末期から、約5000年を経ても成仏できずに現世を苦しみ呻きながら彷徨うとは、どんな罪と罰であろうか…聞いてるだけでゲンナリして来ます。
怪異共は、5000年以上ブンブンやっていて飽きないのだろうか?
…多分、これは罰でもない。
一種の自然現象に近しいものなのだ。
…ならば、仕方ないのか?
それにしても、この怪異共は生前もブンブンと他人様に迷惑を掛けたに違いなく、没後も腐魂となり悪想念や概念に引きずられ取り込まれて成仏せずに、ブンブンと騒音を撒き散らして、他人様に大迷惑を掛けている。
いったい何のために生まれてきたのだろうか?
為した行いは消えることはない。
当人が忘れて記憶はなくとも、世界は覚えている。
引いた波は、必ず返って来るのだ。
選抜メンバーは、士官候補生達10人です。
プラス補助員に、僕はジャンヌを選んだ。
「このジャンヌを選んでいただき、光栄でございます。この機会に、以前とは違う技の冴えを、少尉殿に観ていただきたく。」
脇に居て、鼻息荒く、目が輝いている。
いや、たんに怪異対策で神道系統の術式をマスターしている人を選んだだけなんだけど…まあ、いっか。
やる気のあることは良いことだ。
ここは、埠頭の根元にあたる。
僕とジャンヌ、ルピナス公爵令嬢を筆頭に士官候補生10人の総勢12人集合です。
ジャンヌは、脇に6メートルくらいの長槍を立たせている。
その先端の刃物は、暗闇で反射しないよう黒く塗られているが、飛んで来た兜虫が触っただけで真っ二つになっていたことから、あの刃先の鋭さは要注意です。
ルピナス准尉は、瞳がキラキラと輝いて興奮気味です。ルピナス嬢の肝の太さは、流石、公爵級ですね。
他の士官候補生達は大なり小なり緊張し過ぎて、ガチガチです。
…もっとも初陣ですから、そうなるのも無理はありません。
全員貴族ですが、そこに尊大さや、平民の僕を侮るような目の色はない。
但し、約1名から奇妙な視線を感じる。
そうそう、あの口論したクシャ准尉ですね。
あの時、僕の隠業の術が消えたに違いなく、彼からは僕の本当の姿が丸見えなのです。
何やら熱意をもって肌を這うようにアチコチ注視されてるのが分かり、やりにくい。
敵意とも軽蔑でもないので実害なく、放置しているけど、なんとも妙な感じです。
ああ…そう言えば、学生の時も似たような視線を感じ過ぎて神経が参りましたよ…そう思えば懐かしいとさえ言える。
ただ、今では僕も大分精神が図太くなりましたので、通過するイメージで気にしない。
…気にしないぞう!
…暑くて開けていた襟元を閉める。
夏の夜でも、海辺は潮風が吹き続けて、若干涼しいのです。
「さて、士官候補生諸君。僕はアールグレイ少尉である。現役将校で、この場では最上位の階級を有するから、君達は僕の指揮に従うこととなる。そして副指揮官は、ダルジャン・ブルー・エペ准尉とする。彼女は、君達候補生とは違い現役の准尉であるから、君達の上位に当たる。心して指揮に服するように…次に、作戦だが…」
僕は、まず立場を明確にした。
集団戦では、序列を明らかにしなければ、混乱を生ずる。
自分のみならず、周りをも危険をさらすのだ。
だから、もし異論あれば、帰ってもらうつもりだった。
これは仕事で、彼らは同僚であり、僕は子供のお守りに来たわけではないからだ。
しかし、杞憂であった。
馬鹿でないのは、話しが早いので助かる。