雨の降る頃❶
私は、栄えある冒険者ギルド士官学校の士官候補生の最上級生のハロルド・アンドレア・クシャ。
500年の歴史あるクシャ男爵家の長男。
武門で名を上げ当時の王家から、爵位を賜った先祖に倣いて、私も武門の道を選んだ。
冒険者ギルドを選んだのは、クシャ家がついている領袖の統領がルピナス公爵で、私と同い年の公爵令嬢のアレキサンドリア様が冒険者ギルドを選択したからだ。
ギルドは、半民間団体である自営業者の集まりであるから、軍や騎士団より格は落ちるが、メリットもある。
まずその総数は、他の団体より圧倒的に多く1万人を越え、ありとあらゆる業種に浸透しているから、その影響力は半端ない。
各業種のプロが揃っており、いずれも高水準を維持している。
武力においては、その強さは騎士団に匹敵し、数においては軍隊にひけをとらない。
殊にギルドのレッドは騎士を凌駕する強さを誇るとされ、民間でありながら、その武力の実力により事実上の騎士位持ちと同格とされる。
つまり誰に叙勲されずとも、個人の武力により騎士位を取得できるのだ。
私は、将来、男爵位を受け継ぐ。
ならば、男子たるもの実力により、騎士位を取得するのも悪くない。
貴族である私は、平民などと一緒ではないから、アレキサンドリア様に倣い、勿論士官学校へ入校をはたした。
入校時の階級は、仮に准尉扱いの士官候補生となり、卒業時に仮は取れ士官となる。その後、依頼を規定数達成させ、実地研修を経れば自動的に少尉となる。
…狡いとは思わない。
平民と貴族は元から生まれも立場も、伝統、格式、責任、教育、環境も、何もかもが違う。
平民には平民の、貴族には貴族の生き方があるのだ。
それに学業課程を経るだけでも大変な事だった。
この三年半を思い返せば、数々のツラい出来事が思い出される。
…
本来ならば、ここで一息入れたいところだが、アレキサンドリア様が夏季講習をご希望された。
…いかんな。
夏季講習とは、武力だけが取り柄の平民の猿共をこともあろうに、我らと同じレッドに昇格させるに際し、貴族に失礼な態度を取らないよう教養を施し、躾ける場であると聞く。
そのような場所に、高貴な公爵令嬢を、巷の平民共より、多少はマシとは言え、野蛮で下劣な塵芥の平民の集団に浸かっては、高貴で麗しい花が穢れてしまうではないか!
…許されぬ。
アレキサンドリア様も、向上心ゆえのご希望であろうが酔狂がすぎる。
…
よし!私も希望して、公女様を御守りしよう!
こうして、私は学友を誘い、共に夏季講習へと参加したのだ。
・ー・ー・ー・
…驚いた。
レッドに昇格した平民共の中に忌まわしき獣人まで混じっているとは、全く世も末だ。
いつから、獣が人に昇格したのだ?
断じて認められん。
我ら高貴なる貴族と、平民や、ましてや獣と一緒くたに扱うとは、ギルドも狂ったとしか言えない暴挙である。
いくら実力や武力がある者を取り立てるといっても限度がある。
これは、問題だ。
学校長に抗議をしてやる!
ここで、学校長の姿と、抗議した際の自分の人生の結末が明確に思い浮かんだ。
ゲェウエー!
い、いや…駄目だ!
…ハア、ハア。
あの女に正論は、通じない。
私も、流石に犬死にはしたくない。
ならば、個別に、平民共に己れの分際を弁えさせるしかあるまい。
騎士位たるギルドのレッドに相応しいのは、貴族だけであり、平民や、ましてや獣どもにも相応しくないことを分からせてやろう。
平民は、ブルーに落として私達貴族に傅けば良い。
天地がひっくり返っても同格には、成り得ないのだから。
獣共にいたっては人でもないから、優秀ならば弾除けに飼ってやってもよいし、従うならば、精々名誉グリーンにしてやっても良いかな。