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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
510/617

雨の降る頃②

 教官は傍観していた。



 隅に立っている、若いのに髭を蓄えた教官をジッと見る。


 歳の頃は、20歳代前半、僕らとそう変わらない歳です。

 細身で、ギルドの制服ではなく、黒色の丈の長いスーツ様の服を着用している。

 その高級そうな生地は、ちょっと桁が違うくらい高いに違いない。

 金持ちに違いなく、その冷徹を装う態度は、この教官は貴族出身であることが窺われた。


 …


 観察結果を訂正する。

 教官は、わざと、傍観している。

 そして、僕に見られていることも知っていて、敢えて動かないのだ。


 僕の中で、カチリとスイッチが入る音がした。


 犬族の獣人の子は、今まさに僕の目前で、泣きそうな顔でガタガタと震えている。

 この子を情け無いとは思わない。

 他人から非難されることは、骨身に沁み入るほどに心身にこたえることを僕は知っているから。

 …

 非難する方は、おそらく、その情状を酌量する器量を備えていないのだろう。

 本当の批判とは、相手の情状に寄り添いながらも、それとは真逆の正当を突きつけなければならず、ツラくて内心涙する行為であると思う。


 そして、傍観者的立場から賢しげな物申しても、誰にも響かず、何も変わらない。

 だから、そう思った僕の、次なる行動はコレだ。



 非難、糾弾の雨の中、僕は立ち上がり、教壇方向に歩いて行く。

 …

 …

 …

 コツコツと靴底が床を叩く音がやけに大きく聞こえた。

 …

 僕は犬族の獣人の子の直前まで来ると立ち止まった。


 僕の気配に気付いたのだろう。

 その子は、俯いていた顔を見上げて、不思議そうに僕を見たんだ。

 だから、僕は安心させるようにニッコリと微笑みかえした。


 幼いながら、獣人というハンデをものとせず、ここまで這い上がって来た子に、僕は敬意を表したい。


 僕は、クルリと身体を翻すと、この子と皆の間に立ちはだかった。

 数多くの視線が僕に集中し、その圧力が痛いほどに感じた。


 敵対…非難…


 戸惑い…好奇心…


 冷徹な観察…


 ここにいる皆のそれぞれの視線の思惑を感じる。



 …


 いつの間にか、非難、糾弾の雨は止み、教室は静寂に満ちていた。




 ただ外の嵐の音だけが、僅かに聴こえていた。










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