雨の降る頃②
教官は傍観していた。
隅に立っている、若いのに髭を蓄えた教官をジッと見る。
歳の頃は、20歳代前半、僕らとそう変わらない歳です。
細身で、ギルドの制服ではなく、黒色の丈の長いスーツ様の服を着用している。
その高級そうな生地は、ちょっと桁が違うくらい高いに違いない。
金持ちに違いなく、その冷徹を装う態度は、この教官は貴族出身であることが窺われた。
…
観察結果を訂正する。
教官は、わざと、傍観している。
そして、僕に見られていることも知っていて、敢えて動かないのだ。
僕の中で、カチリとスイッチが入る音がした。
犬族の獣人の子は、今まさに僕の目前で、泣きそうな顔でガタガタと震えている。
この子を情け無いとは思わない。
他人から非難されることは、骨身に沁み入るほどに心身にこたえることを僕は知っているから。
…
非難する方は、おそらく、その情状を酌量する器量を備えていないのだろう。
本当の批判とは、相手の情状に寄り添いながらも、それとは真逆の正当を突きつけなければならず、ツラくて内心涙する行為であると思う。
そして、傍観者的立場から賢しげな物申しても、誰にも響かず、何も変わらない。
だから、そう思った僕の、次なる行動はコレだ。
非難、糾弾の雨の中、僕は立ち上がり、教壇方向に歩いて行く。
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コツコツと靴底が床を叩く音がやけに大きく聞こえた。
…
僕は犬族の獣人の子の直前まで来ると立ち止まった。
僕の気配に気付いたのだろう。
その子は、俯いていた顔を見上げて、不思議そうに僕を見たんだ。
だから、僕は安心させるようにニッコリと微笑みかえした。
幼いながら、獣人というハンデをものとせず、ここまで這い上がって来た子に、僕は敬意を表したい。
僕は、クルリと身体を翻すと、この子と皆の間に立ちはだかった。
数多くの視線が僕に集中し、その圧力が痛いほどに感じた。
敵対…非難…
戸惑い…好奇心…
冷徹な観察…
ここにいる皆のそれぞれの視線の思惑を感じる。
…
いつの間にか、非難、糾弾の雨は止み、教室は静寂に満ちていた。
ただ外の嵐の音だけが、僅かに聴こえていた。