蝉の鳴く頃⑦
エヴァ准尉は、真面目な女の子でした。
一緒に居て比べれば、僕の不真面目さと怠け癖が際立ちます。
うんうん…でも、その何に対しても真剣に向き合う若々しい真面目さの中に健全な大人の女性の懐ろの深さも感じられて、安心して絡むことができるのだ。
世の中には、こんな良い子もいるのだな…と世界の広さをあらためて知る。
それにしても女の子なのにカールとは如何に?
「私が産まれた時、両親は男の子を望んでいて…。」
いやいや、そりゃないよ。
だったら、せめてミドルネームに女の子らしい名前が欲しかった。
苗字のエヴァが一番女の子らしい音を踏んでいる。
しからば、僕は、エヴァと呼んでいいかしら?と聞いてみた。
「…うん、私もアールと呼んでいい?」
おっと、エヴァさんらしからぬ、積極的な提案です。
もちろん、もちろん、オフコースですよ。
エトワールが僕のことを、そう呼ぶのを聴いていたのかな?だとしたら偶にはエトワールも役に立ちます。
一方的な関係は、僕も望まない。
僕が親しく呼びすてにするならば、相手にもそれを望む。友達とは対等で、天秤は傾かないものだ。
もしかしたら、エヴァは、超受身の脅威の察知力で、僕の考えを察知して合わせてくれたのかもしれない。けれどもしそうであっても僕を尊重してくれた結果であるから、僕もエヴァを尊重したい。
うんうん…お互いの名前を呼び捨てにするならば、僕達、もう友達だよね。
昼休み、臨時生徒会室に役員が集まるのが定例となりつつある。
実際、僕らは忙し過ぎて昼休み以外、全員揃うのは難しい。
さて、スカウトは大成功と言ってよい。
ふふん、見たか、エトワール。
コミュ障の僕でも、やるときはやるのだ。
しかも、友達もゲットだぜぃ。
誇らしくて、今日の気分は上々です。
昼休みになり、エヴァに声を掛けて臨時生徒会に案内する。
途中、並んで歩いていたら手が当たり、何となく勇気を出して握ってみると、エヴァが握り返してくれた。
…嬉しい。
心が晴れるようだ。
小さい頃、帰り道で、父さんや母様と、手を繋いで歩いた事を思い出す。
僕らは、独りで産まれてくる。
人生を歩むとは、生涯一人旅をするようなもの。
孤独な旅路である。
だが、だからこそ、出会いも別れもあり、喜怒哀楽が人生を彩るのだ。
いつかは旅路の途中で独り倒れる時が来る。
しかし、その思い出があれば、寂しさも少しは紛れるであろう。
まだ、それは先の話しであろうが。
ギュッと握ったエヴァの小さくて柔らかい手が暖かい。
今日は、ルピナス嬢とエトワールに、護民官就任を了承してくれた、僕の友達となったエヴァを紹介するのだ。
二人にもエヴァと仲良くなって欲しい。
だって、こんなに良い子なんだから。