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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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フォーチュン・クッキー(後編)

「やあやあ、そこにいるのは、フォーチュン准尉ではないですか?…おはようごさいます。」


 いつになく少尉殿らしくない、ギクシャクとした声掛けを俺にして来たのは、言わずと知れたアールグレイ少尉殿です。

 この銀鈴を思わせるような涼やかなお声を、俺が間違えるはずもなく見なくても分かる。


 些か言い方が不自然な気もしないではないが、神の眷族の思慮を理解しようとしても無駄骨であろうと、その様な事一切気にしないフリをした。

 しかし、時間的には昼近くなので、彼女の、おはようございますに対して、何て返そうか一瞬迷ったが、結局、オウム返しに返答しながら振り向いたら…


 (あいうぇおおぁおえおーー!)

 少尉殿を真近過ぎる位置で見て内心悲鳴を上げる。


 振り向いた先にいたのは、確かにアールグレイ少尉殿だったが、直ぐに視線を逸らして、少尉殿の足先を見るようにした。


 ???


 何故、俺が内心悲鳴を上げたのも視線を逸らしたのも、自分で理由が分からないが警鐘が鳴ったのだ。

 …

 今まで修羅場を何度もくぐり抜けたが、こんな経験は初めてだ。

 心臓がバクバクいっている。

 少尉殿は本物だ…間違いない。

 確かにいつもの少尉殿だった…ただ、些かはにかみながら、恥ずかしそうにしていて…超可愛いかっただけだ。

 そう、今でも残像にクッキリ残るほどに、俺にはメチャクチャ可愛くみえたのだ。

 魂が吸い寄せられるほどに?!


 ??  ?


 どういうことか?

 確かに今までも少尉殿は可愛いと認識していた。

 しかし、今日の少尉殿の可愛いさは度を越して来て惹きつけられる。


 もしかして…これは魅了魔法?

 …

 いや違う!魔力波の揺らぎが全くない。


 だとしたら…

 これが少尉殿本来の魅力…?!


 

 今まで少尉殿の外見は、勤務中、表情の変化に乏しかったが、それでも十二分に魅力的であった。

 普段でも、男友達みたいな感覚で来るので、気にしてなかった。

 しかし、今日の少尉殿は、自分の女性の魅力を自覚してる上で、更に内面の無自覚な慈愛を隠すことなく表情に出して来ている。…その相乗効果の威力が凄まじい。

 痺れて、動けない。

 

 危険だ…今の状態は非常に危険だ!


 何故、今になって、こんなに魅了を駄々漏れするのか?

 一瞬見ただけで…ドキッとしたぞ!

 



 「今日は良い天気だね。体調はどうかな?」

 本人は無自覚だろうに、声が麗しく、妙に艶めかしく聞こえる。

 少尉殿の場合、本当に気遣っているのが分かるので、心が絆されてしまう。


 だが、今、何故か魅力全開の少尉殿の姿をまともに直視したら俺の理性が保つがどうか分からない。

 面を上げて見たい誘惑を必死で我慢する。

 

 結果、俺は、自動販売機の取り出し口から、取り出した缶を握り締めて、ボーとこちらを観ている風を装った。

 反応は示さないというより我慢するのに必死で動けない。


 

 「フォーチュン准尉、大丈夫かい?」

 すると、尋常じゃない様子の俺に心配した少尉殿が近づいて、掌で俺の額を触って来たのだ。

 邪気のなさに迂闊にも避けられなかった。

 しかも、なんと吸い付くような心地良い掌だ。

 !

 ハッとして咄嗟にその小さな手を振り払い、後方に何歩も下がった。

 直後に凄い後悔の念がわく。

 「…少尉殿、大丈夫ですから!」

 彼女の優しさを無碍にしてしまった。

 しかし、逃げなければ、感情に押し負けて、この場で抱きしめて押し倒してしまったかもしれん。


 少尉殿、その半無自覚な魅了を早く止めて下さい。


 だが俺の願い虚しく、少尉殿は更に接近して来た。

 俺は余裕なくギョッとして慌てた。


 稾をも掴む思いで、握り締めていた缶を接近して来た少尉殿の前に突き出す!


 

 ただのオレンジジュースの缶です。

 だが、効果はあった。

 接近が止まったのだ。


 「こ、これを…差しあげます。」

 

 怪訝な雰囲気が伝わって来た。

 必死で言葉を紡ぐ。

 「美しいレディには、男は皆、贈り物を捧げたいものなのです。どうか私の気持ちで、喉を潤していただきたい。」

 片膝を着けて格好つけて、どうぞと、少尉殿の手の平にオレンジを手渡す。


 あからさまに恥ずかしながら戸惑う、年相応の少女の姿がそこにあった。


 こ、これは眼福過ぎる…鼻血が出そうだ。

 だが…チャンス!??


 俺は、いつまでも見ていたい誘惑を振り切り、その間隙を縫って、全力で男子寮の方へ逃げ出した。

 それも全速ダッシュだ!

 これは、戦略的転進である。

 漢には全力全開で逃げなければ危ういこともあるのだと直感が告げたのだ。



 これは以前、現場で敵わない強敵に出会わした際にも、通用した心得である。

 まず意表を突く!

 その直後に全身全霊を込め逃げるのだ!



 こうして俺は、窮地を脱した。



 …


 

 次に会った時、少尉殿は元に戻ってた。

 少し残念に思う自分に戸惑った。


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