結界
取り敢えず、結界を張ろうと思う。
魔力で眼を集中してないと、アレは姿が見えない。
いつ来るか分からないからアレから殿下を守らなければならないのだが、眼に魔力を集中するには時間が限られるし、アレを発見することができる僕の探知魔法は長時間使用には向かない。
探知魔法を常時展開するには魔力波を同心円状に遠方へ何度も何度も撃たなければならない。よって長時間には適さない。
そこで、取り敢えず結界だ。
結界術は守って待つことに適している。
最初に設置すれば、半永久的に自動作用するからだ。
結界術式に関しては、ギャルさんが詳しかった。
「結界は守るのに適してますから、道具と結界術式の知識があれば、割と簡単です。魔力の増強、放出系と相性も良いですし。」
ギャルさんをヨイショしながら、結界の設置と説明を頼むと、照れながら道具を置いて説明してくれた。
「テンペスト殿、アレは来るだろうか?フッ、フッ、フッ。」
「いつ来るかは分からない。でも来る。あいつは恨んでる。殿下を、みんなを、世界を、自分以外の全てを恨んでる。他人の利益を盗みとり、自分を被害者にして、延々と他人を責める末路の姿がアレだ。きっと今も殿下のせいにして恨みを募らせている。人間から、そういう生き物に変異してしまった。。あの姿は、まるで…。」
「フッ、フッ、…そうであるか。フッ、フッ。」
「クラッシュさん、さっきから何をしてらっしゃるんですか?」
「うむ、我輩、フッ、フッ、普段から身体を鍛えておるのが日課でな。ギャルの結界は狭いから、この部屋で腕立て伏せをな、フッ、フッ、しておるのだ。フッ、フッ。」
クラッシュさんが高速で腕立て伏せをしている。
飛び散る汗。
「ギャルさん、結界を広げようか…。」
アレの気配は無い。
今日は、護衛5日目の夜。面談に使用したホテルを引き続き借りて使用している。
殿下は、おそらくショックであったのだろう。早々にベッドで寝込んでしまった。
殿下を挟んで、ベッドの両側に僕達も寝る。
出入り口にクラッシュさんが門番の如く立っている。
その姿は、まるで武蔵坊弁慶だ。
今日、来る予感がする。これは勘だけど….。
いや、実はもう来ていたんだ。窓の外に。
結界に触れないよう外側から見ていたんだ。




