鏡の中のアールグレイ④
取り敢えず、ラピスをベッドに寝かせる。
何故かしら、顔が幸せそうだ。
心臓は動いているから、大丈夫そう。
ラピスの症状は、何らかのショックに対する症状に似ている。
もしかしたら…こんなツンツンな性格だから対人コミュニケーションに慣れていなかったのかもしれない。
迂闊でありましたか…?
いや、ラピスのこれからを思えば、逆に慣れさせてしまえば良いのだ。
あ!きっと毎回抱擁すれば、人慣れしてくれるに違いない。
うんうん…きっとそう。
次からは、最初から近接コミュニケーションを心掛けよう。
僕は、ラピスが寝てる間に、対ラピスの方針を決めた。
窓を開ければ、新鮮な潮風が部屋に吹き込んで来る。
都市歴5025年冬、アッサム王の治世の6年目、ダイ島の潮風に僕は吹かれている。
緩やかな風にシアーカーテンが揺れた。
窓枠に手を掛け外を見れば、緑に繁茂した景色と、その向こうには海があるのだろう。
潮の匂いがした。
ああ、現実だ。
間違いない…確かに現実に間違いない。
僕は、この時代、この世界に確かに存在している。
窓を閉め振り返れば、壁に立て掛けた姿見の鏡に映った美少女が僕を見つめ返していた。
…
うん、認めようじゃないか。
確かに僕は可愛い。
前世の記憶が残る身としては妙に複雑な心境になった。
…だがまだまだ検証は必要だろう。
でも結局は当事者だから%が高まるだけで確証は得られない。
そうなると僕が皆からどう見られたいかに依るかも…僕の心次第ですか?
鏡の中の美少女が、僕をジロジロ見てくる。
ショコラちゃんに及ばないまでも…うん…悪くはないと思う。
それでもルフナやフォーチュン君には、まるで通じない程度の魅力だけれどもさ。
でもまあ、あの二人はモテるだろうから、僕程度は歯牙にも掛けないだろう。
…なんか悔しい。
ならば、中身だね。
中身を底上げすれば必然総合力もあがる。
これは女子力を上げる必要があるよね!
ダージリンさんに倣って大人の女性の魅力を身につければ…
そこまで考えたとき、アクビが出た。
次いでクシュンとクシャミが出る。
うん…まだ僕ダメージが残ってるのかもしれない。
若いとはいえ無理はすまい。
身体をキチンと休めるのも大事な事、疎かにしてはいけないことを僕は前世の記憶から知っている。
身体は頑張りすぎるから、だから自分が大切に扱わないといけないのだ。
ペンペン様とシロちゃんは、ベッドの真ん中でイビキをかいて幸せそうに寝ている。
「失礼しますね。ペンペン様。」
スピピーと音を出しているペンペン様をゴロゴロと転がして傍に寄せ、シロちゃんを抱き上げてペンペン様のお腹の上に乗せる。
ベッドの中央にスペースを作ると、僕は横になった。
ペンペン様のイビキをBGMにして、クッションの心地よさに包まれ、僕の意識は直ぐに沈み込んでいった。