鏡の中のアールグレイ
人は、先に進まねばね。
たとえ先の道程に、どんなに苦しくツラいことが待ち受けていたとしても。
んーーー、でも特に転生時、僕は、神様に会わず、何も言われなかったし、チートスキルも貰わなかったから、僕に下命された使命などはないだろう。
うんうん…すると僕の自由ですね。
僕の開かないステータスボードには、きっと身分欄に、庶民か一般人、或いは都市民とかギルド員若しくは冒険者と記載されてるであろう(想像)。
そして、特徴欄には、ちょっと可愛いとか書かれてたら嬉しい。
今は、洗面所で鏡を見ている。
オクタマ湖トレイルから無事に生還して、一眠りした後なのであります。
因みにペンペン様は、持参のリュックから勝手に食べて、勝手にベッドで寝てました。
…逞しい。
僕も見習わなければ。
今まで顔の造作の程は、あまり気にしたことはなかった。
だって顔を洗う度に、毎日見てる自分の顔だもの。
でも造作は悪くはないと思う。
母様からは、父さん似だと褒められたことがある。
因みに母様は、自分のこと面食いだと称しておりました。
ムフー、思い出の中の父さんと目元辺りが似てるかもしれない…嬉しい。
しかし、私もお歳頃の娘です。
周りでは、主に同期生の獣人達らが、互いに番を見つけてラブラブしているとかの状況が、既に帰りの船舶内で見られた。
青春の取り柄は、人を好きになることだと、前世の歌で聴いた覚えがある。
…初日から実践している獣人達らが、少し羨ましくも感じる。
ああ…こんなラブラブ環境では、僕も自分の身の振り方が気になろうというものです。
マジマジと真剣に自分の顔を見てみる。
そこで前世の記憶から男性の意識を呼び起こして、改めて自分の顔を見てみると、今世の僕は、超可愛いことに、今、気づきました。
おおー、これはなかなか上物ですぜ。旦那!
うんうん…傍目から観ても可愛いよね。
引いて、鏡に全身を映してみる。
ポーズを取ってみたり…。
うん…悪くないじゃん。
均整がとれて、引き締まっているのに出てるとこは出てる。
…なるほど、学校時代、多数の男子学生から告白されたのは、この見た目のせいに違いない。
しかし、番う相手は、唯一人だけなのだから、肝心な人に告白されなければ、まるで意味がないと思ったり。
世の女子は、そこら辺、どのようにお考えなのだろうか?
ここは、恋愛事情に詳しい方に、まずはご教授頂いた方がいいであろう。
「え?え?私ですか?アールグレイ様、基本、貴族に恋愛結婚は御座いませんから、相応の身分の方と政治的な繋がりを目的に婚約するのが順当ですわね。あら、でもこのまま、マリアージュ・エペ家を新しく興して当主として、好きな方と自由に恋愛結婚するのもありかもしれませんわね。」
ショコラちゃんは、そう言って意味ありげな色っぽい目線を僕に向けた。
うんうん…ショコラちゃんは、相変わらず可愛い。
でも残念ながら、参考になりませんでした。
ショコラちゃんは、僕と仲良くしてくれてるけども、本来ならば、口を効くのもはばかりがある程の箱入りのお嬢様です。
聞く相手を間違えたと気づく。
お礼を言って、次に聞きに行く。
飲み物を買いに、渡り廊下を歩いて行き、食堂に赴く。
たまたま、同じくして販売機の前に来ていたフォーチュン君と目が合う。
やあやあ、君、久しぶりだね。
フォーチュン准尉は、何故か僕に会わないようにしてる素ぶりが見える。
態度からは嫌われているわけではないと思う。
まるで敬いながらも遠ざけてるような…?
でも、僕は悪いアールグレイじゃないよ。
仕事中ではないので、ニコニコしながら、手を小さく振って近づいて行く。