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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
493/618

ペテルギウス、憤る

 船が本土の波止場から離岸した時、ホッとした。


 次の瞬間、ホッとしたことに疑問を抱いた。

 何故?

 全てわたしの予定通りだ。

 [暴風(テンペスト)]は、行ったっきり帰って来なかった。

 [暴風(テンペスト)]が、折り返し地点を出発したと聞き、まさか、戻ってくるかと心の何処で可能性を考えていた…それが計画通りになった結果にホッとしたのだと理解する。


 だが次に、言いしれぬ不安感のような、落胆のような、苛つきのような分からない感情が頭をもたげた。




 [暴風(テンペスト)]の仲間が一人迎えに出て行ったが、そいつも戻って来なかった。

 失格になると分かっていて、尚も仲間を迎えに飛び出して行った一人だけ。

 

 …嫌いじゃないね。

 なかなか男気があるじゃないか。

 惜しい気持ちがある。

 同時に、そんな仲間を持った[暴風(テンペスト)]にも興味が生まれた。


 だが、自分が決めたルールは曲げられない。

 船に乗船が間に合わなければ、二人とも失格だ。 


 …


 何なんだ…このイラだだしい気持ちは?

 だいたい何故仲間が窮地だというのに、一人以外、誰も助けにいかんのか!

 その一人が失格になり、ヌクヌクと残った腑抜け共が合格かぁ?!


 足音を荒立てて、甲板から、艦橋に入り中央の椅子にドカッと座る。

 この船は指揮艦を務めるほどに大きく、今わたしが座ったのは、提督椅子だ。


 だが椅子に座り落ち着こうとしても、イライラは晴れなかった。


 オクタマ湖の折り返し地点に派遣した教官からは、[暴風(テンペスト)]が、辿りつき、立てない程の高熱を発しても、リタイアをせずに、よろめきながらも歩いて行ったと報告があった。

 

 おい…普通、そこはリタイアだろ。

 

 講堂で見た、清楚で儚い、でも優美な少女の身姿を思い出す。

 …あんな儚げな印象なのに。

 あの時点での[暴風(テンペスト)]の立場からしてみたら、間に合わないし、無駄な足掻きになるはず、ましてや途中で倒れ、救援は来ない最悪の事態になるのは予想できたはず。

 それでも、敢えて行くとは…。


 …


 なんてヤツだ!

 失格だ!失格!

 引き際を違えるとは、士官失格だ!


 …


 だいたいが、ブルーからのレッド昇格制度自体わたしは気に入らなかった。

 人は分を知って、その位置が幸せなのさ。

 平民が貴族の真似事しても務まらない。

 本来、平民の下士官に貴族たる士官の代わりは務まらない。

 まあ…確かに例外はいる。

 だが、そういう貴族に匹敵する実力も覚悟もあるヤツは、放っておいても勝手に上がって来るものなのさ。

 わざわさ、安楽な制度を作ってやる必要はない。


 この制度は、あのダージリンの企画構想をジーニアスが現実的に修正発案したと聞いた。

 ダージリンは、ギルドの古狸共を籠絡して、ギルド内に政治的な一派を作りつつある。

 わたしにはない、あいつらの企画、発案、推進力は、なかなか大したものだ。


 ならば、何故、わたしに声を掛けない?


 強さといい、迫力といい、魅力といい、組織の看板たり得る大役は、私以外にないだろうが?

 

 「…そうだろう?」

 わたしが、論理的に心の中の声を大にして言って船長に同意を求めると、船長は恭しく(こうべ)をわたしに垂れた。

 …

 あああ、心の広いわたしならばー、ダージリンから、どうしてもとお願いすれば、名目上でも党首となってやってもよかったのに。


 わたしに声も掛けず、了承もしてないのに、裏側からコソコソ動かれるのが、わたしは一番気に入らないのだ。

 その制度の結果のエセレッドどもの第一陣が、わたしの勤務地である学舎に来た!


 …気に入らないねぇ。

 嗚呼、まったく気に入らないねぇ。

 あの二人が失格ならば、おめおめ帰ってきた他の腑抜けどもは、大失格だ!

 出来得るならば、全員ブルーに落としてやりたい。

 …

 そうね。

 普通の訓練過程すら、耐えられず、落第するようならば、レッドたる資格はないでしょう。

 …地獄に落としてやるよ。

 出なければ、わたしのこのイライラは晴れそうにない。




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