悪魔
「みんな、眼に魔力を集中して見て!」
アレを指差して、注意を皆に促す。
アレは、窓の外から、こちら側を見ている。
ニチャって笑っている。
おわわっ、眼が合った。気持ち悪い。
何が気持ち悪いかと言うと、人間の悪意が凝縮したかのような顔が、あのあざ笑うかのような顔がどうにも生理的に受け付けない。
身長は1メートルも無く、顔が大きくて身体とはアンバランスだ。
全身が緑色の、ところどころにイボイボがあり、ガリガリで手足が細いのに顔と眼が大きく、腹が出ている。
身体は確かに人間ではない。でも、あの嫌らしさが滲みでたあの表情は、確かに人間だと分かる。
周りからも驚きに満ちた声が漏れ出た。
…見えたらしい。
しばらくすると、ソレは消えた。
「アレ、何ですか?」
茫然とした顔で問うギャルさんの言葉に、誰も答えない。
しばらくして、座り込んでいた◉◉さんに、アレの詳しい話を聞いた。
査問会の後から、段々とアレの姿が見えてきたこと。
陥れた奴らを7人殺せと、さもなくばオレを裏切ったお前も家族も殺すと、聴こえること。
最近、だんだんと近づいて見えてきたこと。
そして、声も頻繁に聞こえだしたこと。
「私は、私は悪くないのに、何故、私だけが、こんな目に…。」
うずくまる◉◉さんの、首回りに緑色の輪が見えた。
ん?….なんだろう、これ?…刺青?
薄らと緑色に光っている。
魔力の眼で見ると、薄らと光る緑色の首輪が、見えた。
◉◉さんとは、和解した。
二度と、殿下に対し、害する行為を行わないことを誓ってもらい、損害を補償し、慰謝料を払ってもらう。
公証人を都市政府から派遣してもらい、手続きを正式にする。
これは、甘い措置かもしれない。でも彼の命を取らないのは殿下の意向なのだ。
彼は、この後、他都市へ旅にでる。
事実上の全財産没収(家族が暮らせる分は残す。)の上の追放刑だ。おそらく彼と二度会うことは無いだろう。
ヘコヘコと詫びを言いながら、◉◉さんは帰って行った。
扉が閉じる瞬間、◉◉さんの口元が僅かに上がってたような気がした。…笑った?
僕には、その最後の顔が、アレの顔と重なって見えた気がした。
何はともあれ面談は終わった。
そうなると、残る問題は、アレだ。
話しの流れからすると、アレは会長の成れの果てだと思う。
以前聞いたクラッシュさんの[死刑以上]の説明を思い出す。
死刑以上は死刑ではない。
科学の力で、その者の姿形を無理矢理変えるのだ。心の有り様が姿形に反映されるらしい。その刑に携わって者達は、姿形が変容する様を、生まれ変わり又は転生ど呼ぶらしい。
その者の心に相応しい姿へと生まれ変わる。
それが[死刑以上]の刑罰だ。
人間の心の中は、常に光と闇がある。
この刑は、その自分の中にある闇をまざまざと見せつけられて生きていかなくてはならないのだ。
真っ当な人間なら耐えられないと思う。だって、誰だって心の中では一時でも悪意を抱いた経験はあるだろう?
それを常時見せつけられるのだ。
なんて怖しい刑だ。
考えた奴は最低だよ。
おそらくアレは来る。
そして、今日の面談こそが、◉◉の最後の手だと気がついた。
◉◉は、殿下にアレを押し付けたのだ。
その場では、気がつかなかった。
でも、アレを見たからには分かる。
アレは、◉◉から、見たことによって僕らに乗り移ったのだ。
…やられた。
でも、おそらくここまでは運命なのだろう。
だって予測不可能だったもの。
避けることの出来ない不可視の弾を撃たれたようなものだ。
だから、ここからが勝負です。