ルフナ・セイロンの独白③
士官学校入校前、少尉殿と女子達は合宿に入ったと聞いた。
むむ、あの量の事前準備を、僅か一週間で消化しようとは…だが少尉殿達だったら出来るだろう。
…無理が通る若い彼女らが羨ましくもある。
俺には無理と最初から諦めてるから、半年以上掛けてコツコツと独学で計画的に習得した。
考えてもわからない場合は、素直に分かりそうな者に聞いて回る。
その過程でウバやフォーチュンには世話になった。
俺の周りが優秀すぎる。
他の2人も、俺と同レベルだが、その頃の俺の態度を見てやる気になったようだ。
この分ならば、全員事前準備は大丈夫であろう。
一見して難題でも、時間さえ掛ければ解決出来るのならば、それは安易な部類に入る。
削り節のように毎日、削っていくのだ。
削って行く過程て、増えることもままあるが…。
半年も経てば、最初の削り節は無くなる。
新たに発生した削り節を遺して…それは新たな課題として手元に遺して置く。
この手の知識の習得は、一生涯掛けても終わらないので、必要な知識の習得は選択するしかないのだ。
・ー・ー・ー・
士官学校入学の日を迎えた。
遠目から、久しぶりに少尉殿の身姿を見た。
初日の出を迎えたように御尊顔を拝し奉り感動に震える。
あの方と一緒の世界に生きているだけで喜びが内に込み上げてくる。
…顔には出さない。
30歳の男が、10代の女の子に、この様な思いを抱いていると知れたら…お優しい少尉殿は嫌な顔はしないだろうけども、内心引くかもしれない。
…
それでは、この俺が立ち直れないかもしれない。
それに、彼女に心的負担を掛けたくはない。
だから、俺は側で見てるだけで幸せなのだ。
待合場所において、少尉殿が、大柄の犬の獣人族の若者に絡まれるが、アッサリと投げ飛ばしていた。
うむ、流石は少尉殿だ。
春風に吹かれたような胸がすく思いがした。
だがもし、あの獣人の若者が逆恨みするようならば、俺の出番だろう。
何人たりとも、あの少尉殿を傷つけたり汚したりは、あってはならないのだから。
オクタマ湖トレイル。
レクリエーションの一環らしい…?
趣旨は、よく分からないが、ギルド側の何らかの思惑があるのだろう。
ギルドは無駄な事はしない。
だが少尉殿が嬉々としているから、まあ良い。
少尉殿に追い付けないのが悔しい。
俺と少尉殿との間には、彼岸の差があることが分かった。
…少しは近づけたかと思っていたが、傲慢であったな。あまりの差に愕然とする。
これでは、いざという時、助けにならないばかりか足手纏いになりかねない。
認識を新たにする。
だが、出立する際、少尉殿に疲れたような…ほんの若干の違和感を覚えた。
少し気になったが、その様子は変わらず朗らかだった。
…俺の気のせいか。
…
折り返し地点で、座ったままの少尉殿を見た。
全体的にやはり、何処となく違和感を覚えた。
その顔は、いつもと変わらない様子だが… 少尉殿は、教官と大事な話しがあるから先に行ってくれと言う。
実は、その時今一つ得心がいってなかったが、主君の命であるから従った。
派手な若い教官からは、「コレ愛の試練…。」などと、俺の倍ほどの大きさの地蔵を渡されたせいもあるかもしれない。
仕方なく俺は、折り返し地点を後にした。
その後、俺はこの時の決断を後悔することになる。