ルフナ・セイロンの独白②
自らの心を省みる。
…
俺は、周りの超人達とは違う。
誤解しちゃいけねぇ。
そんな大した人間とは、俺は違うのだ。
ゆめゆめ忘れないようにしなければと、まずは自分を戒める。
これを自戒という。
言わば、心のブレーキ。
踏まないと事故を招く。
人は、何の根拠もないのに、自分が他の者より優秀だと何故かよく勘違いする。
まだ思うだけで、黙っていれば良いものを、賢しげにペラペラ喋っているのを見かけることがある。
…
自然、俺は必要以外喋らないようになった。
それでいい。
あの様な生き恥を晒したくはない。
…
俺は、30歳の大台に乗り、体力面では、既に低下を感じている。
いやいや、まだ若い者には負けないぞと、思う所が既に気にしていると思う。
実際、周りの一回り若い同期生と比べても、まだ負けるつもりはない。
だが、細かいところで、俺が勝手に比べて衰えを感じてしまうのだ。
だから、どうだというわけではないが、これまで頑張ってくれていた身体のメンテナンスは大切にしていきたい。
…
俺には目立った才能すらない。
機転も効かない。
どちらかと言うと愚鈍に近い。
目端の効く機転も、一種のセンス、才能ではなかろうか?と思う。
まあ、人間関係で機転を効かしたいとは、これっぽっちも思わないが。
この手の才は、無論、技術や訓練で補うのも可能だが、それも努力の才能がなければ修得もかなわない。
同じ人の器なのに、人により才があったりなかったりするのが実に不思議だ。
そして、どうやら俺には、機転は効かないが、中途半端な小器用の才は、あったようだ。
何処が違うかと思われようが、全然違う。
広く浅く目に付く範囲で、器用に立ち回りできてもその瞬間だけ、たまに上手くいくだけで、大成はしない。
不器用な奴に後から抜かれる度に、これは才ではなく、瞬間芸の類いのように思えたものだ。
継続し、それを本物にするには、論理、思考、実践、検証などの総合力がものを言う。
…俺にはない。
この俺の小器用の才は、その場限りの手品みたいなもので、偽物の機転と言ってよい。
だが、常に新しい現場に行くギルドでは、割とこの才は役に立ったな。
要は、その場限りの見せかけの出まかせのハッタリだ。
んー、もしかして、俺、ハッタリならば、段持ちクラスに入ってるかもしれん。
周りのそうそうたる煌びやかな才能と比べたら情け無い限りだが、それでも結構、役には立つから馬鹿には出来んぞ。
そうだな…名付けるとしたら[張子の虎]かな。
まるで、実力ないのにレッドになっちまった俺を体現してるような能力だ。
…
ハクバ山探索の後、レッド昇格の通知が来たときには間違いではないかと、マジマジと通知書を見ちまった。
ギルド長の職印が押印してあり、どう見ても本物に見える。
いやいや、間違いだろう。
ブルーでも荷が重いのに、レッドとは冗談に過ぎるぜ。
或いは新手の詐欺か?
もしそうなら詐欺罪は人喰い罪とも異名される重罪刑だから、市中引き回しの上、打首獄門である。
何の得もないのに、最上級に危険なリスクを負うわけがない。
はたまた、イタズラか?
それにしては、書面は精巧で本物の体裁が整っている。
…
結局、悶々としながら一晩明かし、翌日、ギルド本部にその書面を携えて、尋ねに行った。
「あら、それ本物よ。だって私が打ち出して発送したもの。」
顔見知りの受付のダージリン嬢に、尋ねたら、開口一番に、そう言われた。
そ、そうか…やはり、認めたくないが本物だったか…。
そして、どう断ろうか算段していると…
「アールグレイ少尉はね、この調子で活躍すると、数年後にはシルバー確実だわ。するとその周りにいるとなると最低限レッドでなければ見劣りするわね。」
ダージリン嬢の言葉にドキッとした。
「あんた男でしょう!アールグレイ少尉に着いて行くと決めたんでしょう!いつまでもウジウジしてないで覚悟を決めなさい!」
ダージリン嬢の激にハッとして、俺は腑に落ちた。
ああ…俺は分不相応にも、少尉殿に着いて行くと決めたんだ。
そう…決めたんだ!
この後、俺は腕を組んで、真剣な顔つきのダージリン嬢に詫びを入れた。
美人は、怒ると怖い。
詫びを入れた途端に、ダージリン嬢は、クルリと態度を変えて、機嫌良く、レッドのあり方から、士官学校入校までの準備までをニコニコ説明してくれた。
制服を支給され、帰る頃には半日経過していた。
もしかしたら、俺はダージリン嬢の手の平の上で転がされてるのかもしれない。
だが、この俺の為に半日も費やしてくれた嬢には、感謝の思いしかない。