暗闇のアールグレイ
僕は暗い空間にいた。
ああ…僕は、また倒れたんだ。
混濁した記憶を辿り現状に至るまでを理解した。
今も意識が熱で虚ろで、頭が割れるように痛い。
もしギロチン処刑されてるならば、頭の落とす場所を間違えている。
周囲が暗いのは、僕の意識が暗闇に落ちているからだろう。
気がつけば、揺れていた。
暖かい…誰かに背負われてる。
薄めを開けた。
ボヤけた景色が映る。
月明かりの無い、脇を流れる水面に星々の煌めきだけがうつる黒色の濃淡の景色。
ザクザクと土の道を無造作に歩く音が聞こえる。
接している広い背中から、温もりが伝わる。
やはり、僕は、誰だか分からないけど男の人に背負われているのだ。
こんな誰も通らないような河川敷の暗がりの道上に倒れている僕を、よくも発見出来たもんだ。
或いは人攫いかもしれない。
…
だが、揺れながら思うに、そんな印象を受けない。
…
こうして、背負われて揺られていると、小さい頃、父におぶわれていたのを思い出す。
母や姉曰く、父によく、「おんぶして!」とせがんでいたらしい。
僕が、まだ小さい頃の幸せの記憶だ。
父は、強い人だった。
たとえ熱が出ても働きに出て行ったし、頑固で、有言実行の人だった。
欠点もあったが、僕には優しかった。
そんな父も、もういない。
僕を守るために、亡くなってしまったのだ。
…
父が、亡くなり、引っ込み思案な僕は意思を周りに主張できず、毎日いじめられるようになった。
それが限界を迎え、諦めかけたときに現れたのが、前世の僕だった。
そして彼は、僕を救けると、颯爽と僕に身体を開け渡して、消えていったのだ。
あの時僕は、消えていく彼を感じて、行かないでと願った。
そうしたら彼からの思念が伝わって来た。
「…アールグレイ、おまえの人生さ、好きなように生きろ。俺の人生は終わった。人生は一度きり。だからいい。…味が出るというものさ。」
頭を暖かな手で触れられた気がした。
そして…風のように去っていった。
…人生を諦めた僕なぞ構わずに、そのまま生きればよかったのに。
涙が、ポロポロ出た。
ああ、まるで彼は、僕を守るために亡くなった父のような人だった。
…
僕は…自分が生き残るために、二度も父親を殺しているのだ。
この罪禍は、生涯消えない。