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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの冒険
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緑色の猿

 それにつけても、向こうから面会を求めてくるなんて、依頼を受けてくれたギルドの交渉人は、実に優秀です。




 5日目の夜、ホテルのワンフロアを貸し切り、件の依頼人と面会した。


 準備万端で待ち受ける。

 彼は、一人でやってきた。

 その人は、見るからに病んでいるのが、ハッキリと分かった。

 まだ65歳なのに、老けて90歳では無いかと、思われた。


 眼窩は窪み、肌は色白く、食べてないのか、身体は細かった。

 周りを気にして、少しの音でもビクビクしていた。

 まるで、何かに怯えるように。

 

 「お初にお目に掛かる。私は◉◉◉◉と申します。キャンブリック・アッサム殿下への、今までの数々の非礼をお詫びしたいと、大変申し訳ありませんでした。」

 彼は、殿下に会うと、静かな、しかし良く通る声で述べると殿下の面前で、ゆっくりと倒れるように土下座した。


 「◉◉殿、謝罪は分かりました。面を上げてください。ただ私を狙った理由は何ですか。聞かなくては得心がいかない。あなたとは初対面で何ら恨まれる言われはないものと思うが、いかが。」


 彼は、面を上げた。

 だが彼は、僕達から、注視されても、なかなか話そうとはしなかった。それでも、なにか口の中にあるかのように、つっかえつっかえ話し始めた。


 「私は、今まで、真っ当な人生を送ってきたと思ってきました。いったい何処で間違ってしまったのか…。ご存じかも知れませんが、私はさる公益公共団体で会長の秘書を勤めていました。その人の下で、長年勤めて過分なる給料を受け取っていました。通常の給料の2倍以上ですから、おかしいとは思っていましたよ。でも、その金が何処からの金かなんて普通気にしないでしょう。会長が、都市民から契約と称して強盗のように無理矢理巻き上げた金だったとしても、私は仕事をして対価として貰っているんだから関係の無い話だ。そうでしょう?私は悪く無い。」

 彼は、そこまで話すと、息が切れたかのように、しばらく間黙った。

 そして、私は悪くない私は悪くないと呪文のように、ぶつぶつと繰り返した。


 「◉◉殿、話しの続きを。」

 殿下が話しを促すと、彼はハッと気づいたように、また話し出した。


 「私は、会長を裏切ってしまった。一年前の奴隷契約事案の査問会で会長は裁かれました。私は、何も知らなかった、会長の独断でした、と証言しました。だって私は悪くない、会長がやったことでしょう。私は団体が潰れる前に辞めて、今の職場に移りました。もう終わったことだった。だけど、あの査問会以来、現れるのです。あの、緑色の、小さい、醜悪な…そして、私を見るのです。恨みを持った目で責めるのです。声が聞こえてくるのです。あれ以来。初めは気のせいだと思ってました。だけど、チラチラと奴の姿が、見えてきて、聞こえるのです。声が……。」


 ここで、彼は、また黙ってしまったので、今度はクラッシュさんが声を掛ける。

 「◉◉殿、どうにも分かりにくいのだが、奴とは誰のことですか?」

 「奴…奴とは、分からない。見えないのか、今も奴の影が…。見えるのです、小さな、緑色の、醜悪な、猿のような、そして、私を指差して笑うのです。聞こえるのです。お前も一緒だと、同罪だと。もう私は耐えらない。死んだほうがましだ。…だけど言うのです、奴が。助かりたけば俺に関わった奴を殺せと、俺を陥れてた奴らを殺せと。だから、私は…。奴は言うのです。あと一人だと、あと一人で七人になると。そうすれば、私は助かる。あと一人やれば、ひひ、ふふふ。だけど、私はもう疲れた。今もそこに奴が笑っている。」

 彼が指差す窓には何もいない、見えない。


 僕達は、顔を見合わせた。

 狂っている。彼は多分良心の呵責に堪られず、狂ってしまったのだ。ありもしない妄想の産物に怯えているんだ。


 「search。」何も無いことを確かめるために、僕は彼が指差す方向に探知魔法を使った。

 パターン赤、1。


 えっ?あれっ。


 「search。」

 パターン赤、1。

 マジマジと見る。何も見えない。…でも何かいるの?

 「殿下、何かいる。気をつけて、見えないけど何かいる。」

 僕の言葉に、皆がギョッとした目を僕に見える。まるで「ブルータスおまえもか。」てな目で見るのやめて。狂ってませんから。探知魔法に敵対意識が引っかかっていることを説明する。

 「しかし、テンペスト殿、我輩の探知には何も反応ないのだが。」

 クラッシュさんが尚も疑わしい顔を僕に向けるので、更に補足説明をする。

 「小動物くらいの反応の小ささに加え、高度の隠形を使用しています。人間ではあり得ない程の反応の小ささです、点のような、一粒の砂のような。高度の探知以外は探知不可です。僕は探知だけは最近少しだけ自信を持てるくらいですから。」

 眼に魔力を集める。

 微かに影が見える。

 更に魔力を集め、眼に圧縮する。

 見えてきた…その姿が。


 それは、まるで、緑色の猿、いや猿よりも人の悪意に彩られたその顔は、醜悪に歪んで、なんだこの生物は?



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