侯爵家の息子の日常⑤
今まで友達の出来ないのが、俺の密かなコンプレックスだったが、同じ部屋の者達とスムーズに仲良くなれてしまった。
…
20年以上、俺が拗らせていた劣等感は何だったのだろう?
悩んでたのか馬鹿らしくなってくる…ハハハ。
だが今の俺には人と仲良くなる秘訣が、何となく分かってしまった。
…人は、まず、その人を知らないことには仲良くならない。
だから、まず相手を知ろうとするところから始まる。
だが、既に俺は、自分が経てきた経験から士官学校に集った者達が、ここに居るだけで凄い者達であると知っている。
想えば、それぞれ、ここまで辿って来た道は違えど、生半可な道ではなかったはずで、同期生と接する時、自ずと敬意を表したくなった。
きっとそれは、同期生もご同様だろう。
つまり、相手の中身を少しは、相互に既に知っている状態だから、仲良くなれたのだ。
…
きっと、これは兵法にも通ずる。
子供のミリーが家の蔵書の図書館で、読んでいたのを見たことがあるのを思い出した。
敵を知り、己れを知れば百戦危うからず…だったかな?
仲良くなるのも戦いに勝つのも同じ要諦とは、面白い。
多分、俺は、ここからスタートなのだろう。
同期生より、薹たったきらいもあるが、年齢に関して、ギルドは、割と幅広く網羅しているから、俺程度は目立っていない。
友達に関しては、世の中には、相性もある。
更に仲良くなるか、疎遠になるかは、これからの俺次第だ。
…
高い硝子張りの天井から陽の光りが降り注ぐ食堂で昼食を、同期生と仲良く食べた後、講堂に行く途中、こうして周りを見渡せば、獣人率が高いのが目に付いた。
しかし、これは獣人を優遇してるわけではなく、純然たる実力主義の結果だ。
僅か数ヶ月前に、俺は下士官待遇でギルドに登録したが、ギルドの実力至上主義は経験して分かっている。
俺が下士官待遇で入れたのは、叔母が実力を保証して推薦してくれただけの話しで、ミリーの言によれば、「まあ、今はこの辺りだろう。わざわざ下から上がって来るのは無駄の極みだ。」とのことだ。
ギルドの実力主義と効率主義により、昔、制度化された特例推薦制度を、ミリーがギルド資料から発掘してきて活用した。
今回、俺の申請で久方ぶりに陽の目をみた制度らしい。
これは昔々のさるギルド幹部が提案し、両手を上げて他の幹部から高評価され、鳴り物入りで喧伝されて大々的に発足した制度だったが、自分の実力で成し遂げることを好む冒険者から見向きされず、結局利用者がおらず、…だが廃止されないまま形骸化していた制度で、使われるのは久方ぶりらしく、担当者も制度の存在を把握しておらず、驚いていた。
一番この制度を知悉しているのが発掘してきたミリーなのだから、申請は規定された手続き通りに、スムーズに決裁され、俺は、申請した明日には、青の星無しの伍長見習いとなった。
俺は、この一件で情報の凄さを知った。
それからしばらくの間、古豪のブルーに見習いとして付き、一通りの仕事を覚えた。
休みの日は、勿論、ミリーの修行だから、仕事に行くのが楽しみで、付いていた歴戦のブルーのおっさんに、和かに顔を緩めている顔つきを見られて、燻かしげな顔をされたのを今でも覚えてる。




