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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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ミリオネラ、甥の言動に驚く

 波止場にて甥のダイから、思いのたけを告げられた。

 修行をつけてくれとの申し込みのことです。

 今風の貴族の若者を体現したかのような、何事にも無駄であると本気にならないダイから出た言葉とは思えない。

 やる気のない諦めた風の、暖簾に腕押しなダイには似合わない言葉です。

 


 「…え?!は?」

 自分で、ダイからはついぞ一生聞く事ない言葉だと思いこんでいたらしく、思わず間抜けな声を出す程に驚いた。


 …世界の片隅にも驚きはあるのだな。


 自堕落な歳上の甥に発破を掛けようと、ラーメン屋からの帰りの道すがら、ギルドのエースになり得る[暴風(テンペスト)]の調べた半生を語って聞かせた。

 彼女は、一部では有名人だが、ラーメン屋で遭遇したのは全くの偶然。

 その経歴から、近いうちに私が勤めている士官学校に入校してくる可能性高いと判断し、あらかじめ調べていたのだ。

 調べれば調べるほどに、知れば知るほどに、彼女の半生には、感銘を受けた。

 だから、ダイに彼女の個人的事情を含めて調べた事柄を赤裸々に話したのは、少しでも彼女の影響を受けて、見習いヤル気を出して欲しいとの叔母心である。

 だが、それ程期待したわけではない。

 

 

 私の話し程度で、本当に感化されたのか?

 疑問がもたげてダイの顔を仰ぎ見る。

 …

 顔が紅潮している…ああ…それでピンと来た。


 そう言えば、[暴風(テンペスト)]は、傍目にも見目麗しい。これは衆目の一致する意見である。

 彼女自身は、それを些か疎ましく感じてるらしく、終始、隠業の術を自らに掛けている。

 同性である私は、その美しさに感嘆するだけで、それ程に魅了は掛からないが、甥には刺激が強すぎたようだ。


 なるほど…一目惚れか。


 私には経験ないが、姉様達から話しには聞いたことがある。

 甥のダイとは、私が産まれた時からの付き合いである。

 身内の恋を応援してあげたい心持ちはある。

 しかし、ダイと彼女では、見た目も中身も現世と彼岸ほどの実力の差があるとみた。


 なるほど…それで先程の言葉か。


 だがダイよ、三途の川を泳ぎ切るくらいの覚悟がなければ、近づくことすらかなうまいぞ。

 それにおまえ既に先程の態度で嫌われてるし。


 困難から逃げ癖のある我が甥が、厳しい修行に耐えられるのか、私は些か懐疑的だ。

 信じたい気持ちがあるが、身内なだけに、ダイの今までの根性や執念の度合いも把握しているからだ。



 だが思えばそれは、甥が変わる兆しだったのかもしれない。


 おっと、自己紹介を忘れていたな。

 私の名は、ミリオネラ・バーミリオン・グラナダ。

 現グラナダ侯爵の末の妹である。





 私は、前世の存在を確信している。

 この世に産まれ落ちた時、前世の記憶とそれ以前の輪廻転生の記憶を覚えていた。

 だが、私は、そこでふと考えたのだ。

 せっかく生まれ変わったのに、前世の記憶持ちでは、人格形成に影響があり過ぎるのではないかと。

 そこで私は、前世以前の記憶を封印したのだ。

 これが私の一番最初の記憶だ。


 グラナダ家の末娘として、真っ当に育ちながら、それでもその生まれ落ちた数分間で、多少の影響を受けてしまったか大人びた感じに育ってしまった。

 だが封印したのは、成功であったと感じている。

 人の一生とは、一回で充分なのだ。

 無数に繰り返し流していては、魂が擦り切れてしまう。

 おそらく私は擦り切れる直前であったのだ。

 だから本能が危険を察知したのだ。


 赤ん坊の私、偉い!


 この事は、別に秘密にしていない。

 殊更宣伝するように話す気はないが身内には話している。

 女侯爵である大姉様に以前話したら「…ふーん。」と感想とも感嘆とも分からない返事が返って来ただけだった。


 ん!…ちょっと反応薄過ぎない?


 けれども他の姉様方に話しても似たような反応を示したので、もしかしたら…前世の記憶持ちとは珍しい現象ではないのかもしれない。



 







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