表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
473/618

侯爵家の息子の日常③

 その口ぶりから、どうやら叔母のミリーは、彼女のことを既に知っていたようだった。

 家に帰る道すがら、今日初めて会った彼女の半生をミリーから聞いた。

 

 …


 吹き始めた海からの風が肌寒い。


 …


 俺が、他人の人生を興味を持って聞くなど、初めてに違いない。

 俺の不甲斐なさから出た言動を、涙混じりに真剣に指摘して来た彼女に対し、俺が他人にいつも感じるような苛立ちや反感はなかった。

 逆に、清々しさや、真剣に対応してくれた感謝の念が湧いた。

 

 彼女の言動は、慈しみから出た正直な言葉であると感じたんだ。

 その言葉が俺の中で嬉しい暖かみに変わる。

 なら…それに相応しくありたい。

 ああ、何故に彼女は彼女なのだろうか?

 初めて会った彼女の身姿や声が頭を離れない。

 …知りたい。

 それは、おれが20年以上生きていて、初めて感じた淡い思いだった。



 …



 埠頭の先の波止場に着き、舟を待つ間も、海を観ながらミリーの彼女に関しての話しは続いた。

 異常に詳しく、詳細に至る。

 もしかしたら、ミリーの仕事に関係あるのかもしれない。


 

 平穏な人生を歩んで来た俺とはまるで違う人生が、そこにあった。

 平民の人生とは、かくも波瀾万丈なのであろうか?


 幼少の頃の父親の突然の死。

 それに端を発した嫉妬による陰湿な虐め。

 裕福でもなく、虚弱で、武術的才能なしの三重苦。

 学校時代、貴族からの理不尽な強要と確執は、彼女の卒業まで続いた。

 …

 冒険者ギルドに登録してからも彼女の受難は続いた。

 ギルドのシナガ防衛戦での彼女の働きを聞くくだりでは、手に汗を握った。


 おのれ!ニルギリめ!

 ニルギリの傍若無人ぶりは、今まで無関心に聞いていたが、その影響が彼女に降り掛かるのを聞くと、怒りが湧いた。

 その場にいなかった自分が悔しい。

 だが、俺がその場にいて何が出来ただろうか?




 それからもミリーが話す彼女の活躍は、枚挙に(いとま)もないほどで、いったい彼女は、あの小さな身体で、未だ成人してからもそれほど経っていないのに、どれほどの荒波を越えてきたのだろう。



 …



 彼女と俺とは、この島の波止場から、舟に乗り辿り着く港まで続く、目前の海ほどの差があるのだろう。

 ここからでは対岸は、遥かな先だ。

 この差を渡ることなど、不可能のように感じた。

 …

 …

 ああ…今の俺では、彼女の足下にも及ばない。


 波止場から下を見れば、深い色をした海洋の波がユラユラと揺れていた。




 …




 

 ミリーの話しが終わる頃、…俺は決意していた。

 思えば、自分で決めたのは初めてかもしれない。

 「なあ、ミリー、いや…ミリオネラ叔母さん、俺を鍛えてくれないか。…彼女に恥ずかしくないくらいにさ。」


 俺の言葉を聞いたミリーが、眼を大きく見開き、口をあんぐり開けていた。





 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ