対話思考
「まずは、会議を、仕切り直します。」
と皆に告げる。
「独断と偏見により、僕が議長を務めたいと存じます。よろしいでしょうか。殿下?」
殿下が、キョトンとした顔で頷いた。
よし。まずは既存の権威を借りて、会議を僕が仕切ることを宣言し、なしくずしに皆の了承をとる。
そして、ホワイトボートを皆が見やすい位置に持ってくる。
司会進行役になりきり、まずはギャルさんを指名する。
「ギャルさん、そもそも僕達の目的とは何でしょう?」
「えっ、それはー、殿下を守ることだよね。」
僕は、ボードの一番上部に目的と書き、その右横に、殿下を守ること、と記載した。
「では、殿下を守るとは、どう言う状態のことでしょうか?はい、クラッシュさん、とうぞ。」
クラッシュさんは、しばし、腕を組んで考えた後、答えた。
「ぬっ、…やはり、それは殿下を安全な位置に持っていけばいいのでは。」
「それでは、アッサム伯爵領に帰れば安全ですか?」
すかさず質問する。
「安全ではない。これは、領に帰るだけでは解決はしないのう。」
「ならば、どうすれば殿下の安全を守れるでしょう?」
「はい、殿下を害する者を排除すれば良いのでは。」
元気に手を上げて発言するギャルさん。
「ならば、前回は蜂を、今回は蟻を排除しましたが、殿下は安全になりましたか?次は来ませんか?その次は?」
クラッシュさんが不満気に、鼻息荒く鳴らす。
「テンペスト殿、お主何が言いたい。迂遠な物言いは好かんぞ。言いたいことがあるなら、ハッキリ申せ。」
「僕が言いたいのは、元を絶たなくては駄目。いくら尻尾を切ってもキリがない。たどっていって元を殲滅する。逆流して、今までのツケをお返し申す。100倍返しだ。」
……などと妄想した時もありました。
以上は、僕の想像ですから。
それにつけても、どうしても、考え方が好戦的になってしまう。
だって、
殿下を見る。
だって、殿下を、こんないたいけな子供を、10歳の子供を、殺めようとするなんて許せない。許せない。
お返し申す。
などと、なるべく、冷静に、静かに、会議の場で答えたら、クラッシュさんが眼をカッと開き、身体をブルブルと震わせた。
「テンペスト殿!よくぞ申されたっ、我輩も同じ気持ちよ。うぬー、殿下を仇なす輩め、許すまじ!握り潰して殲滅してくれるわわー!」
クラッシュさんから、おそらく鍛えるために握っていた鬼胡桃が二個破裂するように辺りに飛び散った。
コツン、あ痛…
ギャルさんの目から、涙がツーと、頬を伝って滴り落ちた。
「アールちゃん、私、あなたを誤解してたよ、アールちゃんがこんなにも、こんなにも殿下のことを思っててくれてたなんて…。」
雄叫びを、あげるクラッシュさん。
滂沱の涙を流すギャルさん。
…なんですか、これは、予測できません。
「お姉さま、やはり、私、依頼人の人と会ってお話ししてみたいと存じます。だって、私だって勇気をださなければ、私だって皆の仲間ですもの。お姉さまの私を思う気持ちに報いなければ、女がすたります。」
殿下の顔が紅潮している。
えっと、じゃあ、取り敢えず、会ってみるということで、いいのかなぁ…。