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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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出発

 ペテルギウス学校長代理の話では、オクタマ湖までの往復を全員参加で走破するが、レクリエーションだと言う。


 端末で道のりを計算してみた。


 ふむふむ…片道総延長距離86km、徒歩ならば、29時間掛かる。

 改めて画面に表示させて見ると、結構あるよね。

 しかも29時間ならば、順当に歩いて行けば、計算上では明日の宵の口にタマ湖到着となってしまう。

 更に往復だから、距離も時間も掛ける2です。

 …あれ?全然間に合わないじゃん。

 …

 ふむふむ…これはちょっと急げという感じだよね?!

 …

 以前、踏破した際の道のりの景色を思い出す。

 今回は、以前夜の景色を楽しみながら歩いた部分の昼間の景色も見てみたいです。

 想像してみる。

 ….

 むふー、何だか萌えちゃいますよね?

 よし、よし、堤の辺りまで、急ぎで走破して、後は湖までゆっくり流して行こう。


 走破と、その後景色を楽しみながら散策するに、ちょっと興奮してても、隣りでシレーヌさんが「これは、ちょっとしんどいかもしれませんね。」と真剣な顔つきで呟いていたのを聴き逃さなかった。

 ん?…な、なんて、謙虚な!

 僕は、前世のテレビ画面で、アルプスアイベックスなる山羊が、ほぼ垂直な急峻な崖を平気でピョンピョン移動しているのを見た記憶があります。

 あの健脚の強さには恐れいりました。

 山羊獣人たるシレーヌさんの健脚も、きっと走破するに恐るべき実力を発揮するに違いない。

 …

 うんうん…これは、察するに、周りと自分の実力の差を気をつかっての言動でしょう。

 シレーヌさんの周りに気をつかう慎ましい性格がうかがえます。

 僕は、そこら辺は頓着しない大まかな性格なので、この様に周りに気配りする細やかな性格を好ましく感じます。

 僕の中で、シレーヌさんの株が上がった。

 

 走るには、自分のペースがあり、これは各々違う。

 軍団編成でない限り、個別に走破した方が良い。

 それに獣人達の体力と脚力には、僕は到底及ばず追いつけないに違いない。

 ショコラちゃん達にも、今回は、それぞれ頑張ろうねと、あらかじめ声を掛けておく。

 僕は、逃げ足には、獣人達には及ばないまでも、多少の自信はある。

 …震度5くらい?グラグラ…前世記憶でジョークを思い出す。

 … … …

 あまりのしょーもなさに、内心でクスッと笑う。

 僕は、前世の自分を自画自賛ながら尊敬してるけど、このなんてゆーか、ジョークセンスのどうしようもなさは笑うしかありません。

 でも、魂は一緒なのだから、僕にも気がついてないだけで、もしかしたら、そんなしょーもなさを受け継いでいるかもしれない。

 …内心複雑な気分です。

 …やれやれ。


 寮に戻って、それぞれ、動きやすい服装に着替える。

 アリスが「勝負やでー!お先にー!」などと颯爽と出発する。シレーヌさんとクララは、僕に付いて来るみたい。

 ん…いやいや、僕には勝負する気は、まるでないからマイペースで行きますので、先に行って下さいと促す。


 今回は、わりと長距離です。

 しかも、時間制限という縛りもある。

 今回遅れても、罰はないが、実力がレッドに及ばないと疑われ、今期は講習打ち切り、次の期の講習に回されるらしい…だが、もう面倒なので、それはご勘弁願いたい。

 テントは持っていかない。

 身体をピタリと薄く覆う服に手脚を通す。

 これだけでは、恥ずかしいので、ちゃんと上着と短パンを着る。帽子を被り、ジョギングシューズに履き替える。

 水と行動食を背負い鞄に入れて、僕も出発です。

 身体を動かしやすい軽装スタイル、重いものは自分の身体のみ…いや、軽いよ、決まってるじゃない。

 試しにトントンッとジャンプしてみる…うんうん、羽根のように軽いね、僕の身体は。


 外に出ると職員が波止場まで案内してくれた。

 なんと船で、河口までは、運んでくれるそうだ。

 実は、士官学校は沿岸に近い島にある。

 河口側には、橋がないので送ってくれるという。

 夏季講習生の人数は、ざっと見て40人くらいで、一隻に全員乗り込むことができた。


 河口にある朽ちた建物に接岸すると、教官に見送られて、僕らは出発した。

 帰りの船は、待ってくれてるみたい…明日の朝までは。


 このまま自宅に帰りたい誘惑に駆られたが、欠席しても絶対次も召集令状は来る。

 それに、ダージリンさんから怒られるだろう。


 中天から少し傾いた太陽の陽射しに目を細める。

 ここは、やるならば楽しんで、一回で済ますのが吉。

 僕は、身体を解すように軽く緩く走り出した。


 身体のエンジンはゆっくり回す。

 徐々にスピードを上げて行く。

 内覧するように全身に神経を張り巡らせていく。

 俯きながら、走る足元を見て、身体の内側に神経を集中させる。


 …


 …


 …



 …自分の呼吸を聴き慣れた頃、周りを見渡すと、走り出した人数は適度にバラけていた。

 …

 割と前方の遠い先まで、多く走っている姿が見えた。

 …僕は最後尾に近い…多分。

 陽射しに照らされて、樹々や水面や風がキラキラと光って見えた。

 遠い青空から舞い降りた冷風を感じて気持ち良い。


 うんうん…この景色を満喫する気持ちの良さは、前世も今世も変わりなし。


 


 

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