残留思念
木枯らし吹く灰色の寒空の下、寒々とした大地との間に、淋しさが集う。
この丘に来ると思い出す。
美しく、綺麗で、愛おしく感じるものほど儚いのだと。
…消えてしまった。
自己犠牲の精神があまりにも高く…だがその源泉は、他者を慮る美しく輝く心から来ている。
その優しく慈しみの心は、真綿のように純白で柔らかく、自由で凝り固まらないその思想は、清流のように透明で美しく、潤いと清々しさを私に与えてくれた。
そして、その度量は、大空のように広大無辺、そこに舞う小鳥のように自由なあり様。
あなたは、光り、大地を照らす暖かな光りでありました。
あなたと過ごした日々は、汲んでも汲んでも尽きない清らかな泉のように永遠に続くものだと…思い込んでいた。
しかし、それは失われてしまった。
それは、いっときの邂逅…未練などないように、あなたは去っていってしまった。
恨み言一つも言わずに。
…残されたもの達の気持ちを、あなたは考えたことはあるのだろうか?
今は、ただ口惜しい寂しさが、あなたを思い出すたびに募る。あなたのいないこの世界は、まるで抜け殻のよう。
あなたが衣を脱ぎ去るように捨て去った世界だ。
あなたを見捨てた私と同じ、まるで価値がない…全てが色褪せた世界だ。
あれから、どのくらい月日がたったのだろうか…。
灰色の空。
貧困な大地。
汚れた海。
あなたの手を離れた、この世界は、真っ逆様に堕ちていった。
おそらく、これは罰。
あなたを裏切った罰だ。
あなたを失った罪によって、世界ごと地獄へと堕ちていく罰なのだ。
そう…この世界は有罪。
悔恨が涙となって、頬を伝う。
もう、何もかもが遅い。
浅はかな、余りにも浅はかで愚かな民…小賢しくも傲慢、嫉妬に眩む、浅ましき人品、醜く歪んだ己れの正しさを信奉する、誰のためにもならぬ自称善人達…それは、私も同じでありました。
常に正義の立場から物申す毒を垂れ流して、大切な大事な人を裏切るような真似を。
悔やんでも悔やみきれない…亡くしてしまった後で、初めて、この手から大切なものが消えてしまったことに気がついた。
願わくは、来世であなたと再び邂逅したならば…
…
あなたが、よく見上げていた透き通るようや青空は、今や寒々とした黒と灰色の雲とも霧ともいえないガスが覆っている。
その黒々とした気層の底から、雪が一片舞い落ちて来た。
冬が来たのだ。
…恐るべき冬が。
吐く息が白く、凍りつく。
今や、緑の肥沃な大地など何処にもない…眼前には寒々とした荒野が広がっている。
おそらく人類は、絶滅するのだろう。
だが、それは私を含めた自業自得の成果なのだ。
ああ…願わくば、私の思いをあの方へ…
…
・ー・ー・ー・
…瞼を開ける。
ハッとして、上半身を起こした。
知らないうちに、僕は涙を流していた。
悲しい、とても悲しい夢をみた気がした。
今は夏なのに、とても寒ざむとした夢だった気がするけど…よく覚えていない。
謝りたくとも謝れない、胸が潰れそうなほどの悔恨の情と、叶う事はない願いへの切望?
でもそれは僕ではなく、誰かの強烈な感情を直接触れてしまったかのような感じなのです。
まるで燃え盛る焔に飛び込んだように心が痛い。
心臓がドキドキして、思わず両手で胸を抑える。
…
…
…
しばらくして、落ち着いてから周りを見渡した。
見慣れない部屋…見慣れないベッド。
前を見れば、僕の股の間にペンペン様が良い加減に軽いイビキをかきながら幸せそうに寝ていた。
スピスピ言って、シロちゃんとまとまって寝ている。
…
僕は、家に帰って来た穏やかな気持ちとなった。
…クスリと笑う。
なんだかんだ言って、この2匹は仲が良い。
魔法生物の寿命は、人と比べられないくらい永いらしい。
きっと、僕が居なくなった後も、仲良く暮らしている…そんな姿が、思い浮かんだ。
うん…そうして欲しい。
脳が働き出したのだろう…昨日は、ラピスちゃんと追いかけっこしてから…えっと、なんだっけ…確か入学式で…いろいろあった気がする。
結局、昨日夕飯を食べ損なって、寝てしまったんだ。
幸せそうに寝ている2匹は、自分で調達して食べたみたいだ…ベッドの横に痕跡があった。
逞しいな…直ぐに諦める僕とは大違いです。
僕は…お腹が空いているのを感じている。
外は、まだ薄暗く、静かだ。
僕は、食べなくとも我慢は出来るし、出力は下がるが食べなくても、さほど行動に支障はない。食べなくとも2週間は活動出来る。
だだ水分は、取った方は良い。
伸ばしていた脚を畳みて、胡座をかく。
気温は、まだ高くない。
いまだ快適だと言えるかもしれない時間帯です。
これから、太陽が昇れば暑くなる。
よし、今の内に、昨日の事を思い出してみよう。




